Angel Ring 雑感

  • 全体像

 主人公・遠海悟はエロゲ好きでイケメンで空気よめないけど間違った行動はしない性格の学生です。昔何とはなしに彼女が出来たのですが、とある理由によって傷つき、恋愛に臆病になっています。そういう彼の周りには理解のある少女が揃っています。
 エロゲ実妹・佐奈がいて、昔は家ではツンケンしているものの外では何時も後ろをついてくるように懐いていた内弁慶でした。今は主人公のエロゲ趣味を残念に思っていて対応はきつくなっているのですが、何だかんだで――というか全然嫌いになりきれていません。食事・掃除・洗濯などの家事は好きな為に完璧にこなし、世話好きなために毎朝起こしにきて、常に気をかけています。
 また美人で気立ての良い幼馴染の藤井澄佳がいて、主人公がエロゲ趣味になっても変わらずに親しく接しています。
       ――もげろ。
       失礼、噛みました。
 そんな主人公が夜歩いていると女の子が落ちてきました。彼女は自らを愛天使と呼び、仕事を恋愛を足踏している人を後押しすることと説明します。そして現実での恋愛を考えるようになり、主人公の恋愛が再び始まる――


 という感じの冒頭です。
 エロゲ好きなあたりで主人公に対して良くも悪くも閾値がかなり低くなっているように、本作ではシナリオがどこをとってもユーザーライクな作りになっていました。
 まず目についたのは超自然な要素がかなり抑え目になっている点です。“愛天使”が存在するという現実とは異なった設定をなのですが、人間離れしているのは恋愛に足踏みしている人を見つける機械を持っていることと空を飛べるだけ。恋愛を後押しするのはあくまで天界の学校で習った恋愛論を元にした人間と同等の能力でなされます。巨大な能力を持つ“かみさま”はいることはいるのですが、シナリオの根本に関わって発揮されることは一度――より正確に攻略に失敗した時を含めれば2回――しかありません。
 同時にこれまでの作品群で見られたような、超自然の要素に基づいた捻られたシナリオが影を潜めています。
 以上のことから呉シナリオのmoonstone作品随一に判り易くなっていました。理解に頭を使わずにより一層人物劇や恋愛関係に集中出来るよう意図したのかもしれません。

  • 各論

 呉担当がミカ・澄佳・佐奈、尾之上咲太担当が美鶴・ルキア・梓となっています。場所選択方式なのですが、ルキア・梓だけは選択肢で好感度を上がる方を選ばなければ出てきません。 
 それでは尾之上さん担当から述べていくことにします。


・美鶴
 学園の理事長の孫でお嬢様。なので当然立場の差をメインとなるのですが、シナリオは大きく2つに分けることが出来ます。最初は主人公と美鶴の関係、次に周囲との関係というように。出来は普通なんですが、傲慢さの指摘とか、恋愛は両方が関係の成立に努力しなくてはならないとか、ほぼ問題のない流れなので凡庸以外に文句のつけようはありません。
 またこのルートでは恋愛を後押しする存在の愛天使がきちんと理を通して後押しして仕事を遂行します。……愛天使に関しては後に繋がるので、今はそれだけを言及しておきます。


ルキア
 色んなことを高レベルにこなせてプライドが高い愛天使。そこまで長くなく、おまけに近いです。役に立たないエリートを良い方向へと誘導する展開をとるのですが、これまた普通で特に言うべきことはありません。
 なお、ここでも愛天使は愛天使らしく作用しています。


・梓
 背が高くて貧乳であり女らしくないのを気にしているバイト仲間です。これもあっさり終わるかなと思ったら、意外と正ヒロイン並の分量はありました。空気読めなくて他人の心を忖度しないオタクが無自覚にガードの弱い女性を攻めまくって、なおかつ自分を鑑みるようになるお話とまとめてしまえば、まあそれだけなのですが、主人公がかつて心に傷を追った恋愛(生っちょろいと言えば生っちょろいのですが)やエロゲ趣味が尾之上担当では最も活かされていました。
 ただオタク趣味のない彼女をオタク趣味に染める方向なんか凡庸だしある訳ないよねーとキャラクタ同士が突っ込みながら、そっちに持っていくのは意外でした。最後はオタク趣味を共有する立派なオタクカップルになるという、
            ――爆発しろ。
 何とも都合の良い慰撫的なものに堕ちていました。や、無理に痛みをもたらさないのは良いんですが、そういう流れじゃなかっただろうと。愛天使は指摘するだけでほとんど働かなず、恋人たちが互いに成長しあっていきます。それはそれで大事な仕事ですし、在り方ですので、納得しました。


・尾之上担当まとめ
 突飛な展開にせず、無理なく破綻なく進ませ、設定の肝である愛天使は設定されたように使うという、理想的なサブシナリオライタの働きをしたと思います。
 では呉担当にいきましょう。


・佐奈
 実妹との近親相姦に悩むシナリオ。残念な出来でした。これで良しとしたのが信じられません。ルート内では悩んだだけで何も解決していない終わり方のはOKとします。これから彼らは強く生きていくのでしょう。しかし実の兄妹がただ単に悩んで結ばれるだけを書いた書き方が最低極まりませんでした。何故、近親相姦の悩みだけを描写しようと思ったのかが判りません。わざわざ実妹を持ち出したからには、あえて近親相姦の迫害や先行きといった暗い事象を書かなくとも、社会上の関係・社会上の解決に対して何らかの固有のアプローチをすべきではなかったのではいでしょうか。これではまだ実は違いました〜という他の萌えゲーに見られる肩透かしでも落ちるべき所に落ちたオチを拒否した理由が判りません。他のライタなら兎も角、呉さんですから尚更、このように何の工夫もしなかったのは不可解です。
 必ずしも前を乗り越えるべきとは思いませんので出来れば他の作品と比べるようなことは言いたくはないのですが、矢張り『さくらむすび』『Clover point』の後に出てくるものとしてはちょっとどうかと。
 このルートでは愛天使は良く調べもしないまま佐奈の好きな人を勘違いして、引っ掻き回すことになります。好きな人勘違いネタのラブコメはよくあるのですが、愛天使という設定とリサーチのまずさとい思慮の浅さとの乖離に疑問を覚えました。そこが落ちこぼれの所以ではあるのですが。


・澄佳
 これまた愛天使の勘違い系でした。エロゲ趣味の情けない主人公を気にしているから澄佳は恋愛できないのだと喝破し、かき回します。かき回したかったのは判りますが、そこで好きな人の誤認をするのは明らかに無理がありました。趣味と人となりで目がくらむというのが落ちこぼれの所以というのは判らなくもないのですが。
 それで普通に恋愛関係に至った後はエロゲ趣味に寛容な澄佳がエロゲをプレイして、主人公が喜ぶ性行為を学習しようとします。
              ――ぷち氏ね。
 そういう訳でいちゃいちゃ物としては悪くありませんでした。


・ミカ
 落ちこぼれ愛天使を手伝って一人前にさせるうちに……というお約束の展開です。呉担当シナリオに入って散々役立たずぶりを見ているために、最後の盛り上がりを拒否したくなりますが、それ以外はそこそこでした。主人公の目標も活かされますし。


・呉担当まとめ
 こういうように尾之上担当と打って変わって、落ちこぼれ愛天使たちがマニュアル偏重主義による無能さを露呈することになります。2人のライター間の登場人物の能力の差異は問題ではなく、企画が呉さんですし、別に狙ったのがそれならばそれでいいんですが、“愛天使”いなくていいんじゃないかと冷めた気持ちになるのを止められませんでした。
 散々落ちこぼれだからしょうがないと連呼してきましたが、恋愛を学習して実際に行わせる存在の学習と理解の描き方としてはお粗末でした。それは学習内容を疑わせ、設定の蓋然性を疑わせ、引いては設定を考えついた者の――もとい先走りすぎました。
 それにしても、エロゲを趣味として架空の恋愛物に多く触れた主人公と、恋愛を耳学問で学習した“愛天使”。
 背反していて近しい存在たちを持ってきたのなら、何かしら特異な恋愛劇に持って行けたんじゃないでしょうか。だからこそ“愛天使”が存在する根本の理由に突っ込むグランドルートがあるんじゃないかなと想像したんですがねー。
 ま、一プレイヤの勝手な思い込みです。


・各論まとめ
 冷静にこのゲームを評価すると、超自然とその活用を抑え目にしたことから、これまでの作品より明確に一般的な学園物の萌えエロゲとなっています。そういう作品を作ろうとして、作ったのですから、何処にも文句をいう余地がありません。
 完成度が高い、と褒めるべきでしょう。

  • その他

 エロは宣言しているように力入っていました。
 オタクネタはマイルドで置き去りにすることはありません。
 絵・音楽・声は特に無し。
 システムは快適でした。

  • まとめ

 以上。個人的にはがっかりでしたが、完成度は高かったです。

  • Link

 OHP-ゲーム/アニメ ムーンストーン