辺境の老騎士 1~5 雑感

 <人民の騎士>バルト・ローエンは58歳にして長年仕えていた家を離れて旅に出る。それは長い長い晩年の旅路だった――

 老騎士の冒険譚である長編ファンタジー
 『狼は眠らない 1-8』を気に入ったのでデビュー作を読んでみたのですが、これまた素晴らしい作品でした。
 おそらくは古めかしくも品が良い海外ファンタジーを精神的バックボーンとして、心躍る冒険活劇を繰り広げてくれました。
 大いに食べて、大いに人を救い、大いに魔獣を倒し、大いに仲間が増え、時には別れ、時には失う――ページをめくるたびに豊饒なときがそこにはあらわれていったのです。
 例えば大事な手紙を盗んだ盗賊が翌日になにげない顔をして寄ってきて曰く、

「よっ、旦那。元気そうだね。何か、おごってよー」
〈腐肉あさり〉のジュルチャガである。
 アイドラの手紙を盗み取っていった男なのだが、この男の顔を見てもバルドの心には怒りは湧いてこない。それどころかこのときは、手紙のことさえすっかり忘れていた。少しばかり物寂しい気分になっていたバルドは、ジュルチャガの言う通りに何かをおごってやる気になった。
「何がいいかのう」
 (支援BIS.辺境の老騎士 I(Kindleの位置No.1322-1327).株式会社KADOKAWA

 そこで生まれた奇縁は騒がしくも頼もしい旅の友となり、ひいては未来には新たなる村の開拓につながっていくことになるとは最初思いもしなくて。
 或いは自分を殺しに来た騎士を買い取ったことから、生涯にわたる冒険での無二の者となることなど知らなくて。
 老騎士だからこそ容易にしのびよってくる老いと衰えと己の死を携えながら、世に嫌なことも理不尽なことも多いと知りながらもなお、これから起きていく現実と待っている未来がなんて楽しいのか、そう高らかと語られます。
 読めて幸せでした。

 
 以上。「狼は眠らない」に引き続きツボに入り、個人的にむちゃくちゃ波長が合う作品を書く作家と出会ってしまったという感じ。「迷宮の王」も勿論買ってあるので、大切に読んでいきます。

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