天気の子 雑感

 初日・2日目とどうしても外せない用事が重なり、公開3日目の朝一にIMAXで観てきました。
 ネタバレ回避が大変でしたが逆にそうなって良かったかな、と。
 と言うのも映画の幕が下り、劇場を出たのがAM11時半ば。窓の外を見れば、雲を湛えるけれども明るい空。
 観終わった後に今ここに在る空を確認する手続きとしては夜空よりも相応しいものでした。
 

 そんな訳で新海監督の新作なのでした。
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 記録的に雨が降り続ける東京で、閉塞感に耐え切れず島から家出してきた少年が祈れば晴れを呼び込む少女と偶然出会い始まる、ひと夏の冒険記。
 いつもような映像と音楽と演出の美しさと妙味――独自の作家性から生み出されて精度高くコントロールされた映画であり、自分の心の奥深くに抱く原風景へと強烈に届く作品になっていました。
 どんな作品でもそりゃ大なり小なり良きにせよ悪きにせよ心を動かすのですが、現代日本に今ここに生きてきて有するものの一部に本当に驚くぐらい親和性が高かったです。それは30台という年齢からくるのかもしれませんし、俗にいうオタクが持つものなのかもしれませんし、性別:男が持つものなのかもしれませんし、それなりに栄えた都市で生まれて育ったものかもしれませんし、或いは全てひっくるめて同時代の共同幻想なのかもしれません。
 描きたいものを作って、意図的にも偶然にでも今ここに生きている人間の心にこうまで働きかける作品を評する言葉としては個人的には傑作にして名作しか知りません。


 ボクとキミの物語。
 本作内で少年は東京の中の2つの共同体に属しました。
 最初は大人に庇護された生活。編集プロダクション事務所に拾われた少年はいい加減な中年男性と威勢のいい女性と生活と仕事を共にして、東京での生活を確立していきます。言われるがままに雑用をこなして、家事をこなして、オカルトに関する取材を一緒にやって、必死こいて原稿を書く――それは少年が運良く手に入れたとば口で。気心が知れた大人たちと共に一緒に傘をさして買い出ししたり一緒に食事をしたりした時に、誰もが楽しくなかった訳ではきっとなかったでしょうし、時間が経過しないでその一瞬だけが続けばそれはそれで上手くはいったのでしょう。でもまずそこに住む大人たちこそが今だけが続くのに抵抗しないといけないと行動していました。中年男性は亡くなった妻の子供と共に住めるように努力しますし、威勢のいい美女は就活に難儀中。
 だからでもなく、少年は自分が主体で選びたくなる生き方に出会います。
 その出会いは偶然で――運命で。
 次に、そして最後に少年は身寄りのない少女とその弟という子どもたちへと寄り添い、自立した生き方に傾倒しようとします。彼らだけで行動するこそのものが冒険となりますし、大人を介さない/敵意のある大人に囲まれるのは彼らだけしかない絆を強くするように働きます。
 その流れは居場所のなかった者が居場所を得ていく手続きとしては極めて古典的でした。
 けれども前者が現実・成熟と言うなら、後者は妄想・未熟でより一層いつまでもそうあるようにはあれません。物語がクライマクスを迎えるにつれて、当然のように崩壊していきます。


 現代日本の都市――もっと言えば東京で生きるということ。
 バーニラバニラのぎょっとさせられた出だしでガツンとやられて、現代日本都市での人間と自然との生き方が予想だにしていないレベルで上手く切り取られていたように思います。ビルやコンクリートに置き換えられても木々や花々はそこかしこに生えているし、災害でインフラが麻痺しても昼夜働く人間がいるし、自然が人間を追いやろうとしてもテクノロジーが併せて発達してそこで生きていくことに適応します。
 また確認工事中で列車が来る心配がないJRの線路をひた走る少年とか、少女が祈祷して神宮花火大会を成功させたとか、Twitterの動画で雨で落ちてきた魚が消えるまでが再生されるとか。
 全てをひっくるめて現代日本を舞台にしたローファンタジーかつ一夏のボーイミーツガールを東京で見事に繰り広げさせていました。


 生き方と、それを受け入れる場所。
 では最後に、選択について。

 世界の形を決定的に変えてしまったんだ

 彼らは偶発的に力を得て乱用してしまい、褒章ではなく代償から強制的に選択肢が提示されます。
 ――これまでの世界を守るか、彼女を守るか。
 それは何もかもを飛び越えてダイレクトに世界を変えるもので、少年と少女以外には誰も知らないうちに決められる重要過ぎる分岐部でした。
 運命として出会った少女に釣り合うものが少年に内在するのだろうか――という問い直しでもあり。
 倫理や義務が運命に勝つかと言われれば――まあいまどき勝たないよね、と。
 そこは納得するところかどうかは人それぞれでしょうが、少年と少女の物語として、或いは今その選択肢が動く世界を観測する視聴者として、個人的にはそれしかなかったんじゃないかな、と思います。
 にも拘わらず人類のシステムはべっこで動いていてそこには少年と少女は従属的である、というたしなみが本当にキミとボクだなあと個人的にはしびれましたが、ここらへんの感じ方はほんと人によるでしょう。


 ラスト。彼の繰り返される他者への現状の不満度の確認には何の意味がないけれども、あの三文字に込められた承認をもって物語が閉じられた時見事な幸福感に包まれました。
 これでよいのだ、と思った自分の感性を信じたいところです。


 落穂拾い。
 ・今回もテンポ良い日常パートとシリアスパートの転換があったけれども、「君の名は。」よりも上手く溶け合っていていました。
 ・社に飛び込んで実は何にもないとか嫌な想像したけど、そろそろプラスの意味で信じて良いのだろうか。
 ・パンフレットを読むと、周りのスタッフが上手く導いたところもあったのだなと。須賀さんが謎の組織の一員じゃなくて良かった・・・
 ・しかしラブホのベッドで空に至るってエロいね
 ・これまでも現代日本を舞台にした作品ではお遊びの前作キャラ再登場がありましたが、「君の名は。」との関連ははちょっと露骨でした。しかし四葉は何処で出てきたか見つけられず。2回目はもう少し画面の細かいところを注意したいです。おとうさんの2匹目はどうでもよいですが(笑
 ・さて、次回作はどうなるのでしょうかね。世界はほんとに決定的に変わってしまいました。「君の名は。」のキャラクタも出てきてしまったからには、あの物語の後であの変わってしまった東京で生きていく存在と巻き込まれました。別にシリーズではないので同じ世界戦にする必要は全くないのですが、変わってしまった世界を前提とするのかどうか、ですが。


 以上。繰り返しますが、傑作でした。まだまだ語り切れていないところがあるのですが、近いうちに2回目を見てもう少しアップデートしようと思います。

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 OHP-映画『天気の子』公式サイト


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