輝く断片 感想

 スタージョンの短編集。今回は『輝く断片』を中心にミステリ色の強い作品を選んだとのことです。その通りで前半3作はSF/ファンタジー設定が入っていて軽目なのですが、後半5作は重たい犯罪小説が揃っています。


 この5作には共通点らしきものがあるように見えたのですが、そのせいで重苦しいものとなっているように思えました。個人的に考えた共通点をまとめると3点です。

 1.主人公の外見が醜悪で愚鈍
 2.ヒロインの性格が悪い
 3.悪意なしに状況が最悪へと導かれる

 まず“1.主人公の外見が醜悪で愚鈍”ですが、『君微笑めば』『ニュースの時間です』ではまだ外見が問題ないのですが、『マエストロを殺せ』『ルウェリンの犯罪』『輝く断片』では醜く歪んだ顔、回転が遅い思考回路、考えが遅いからはっきり喋れない/喋れないで他人がいらいらする口調と3拍子揃っています。そういう人間であるからこその揺るがぬ周りの見えない熱意が良くないものを招くのが嫌な話の要因となっています。熱意の元になった彼らなりの幸せは綺麗な形を見せているのは確かなのですが、妄念の始まりの幸せに反比例して、終わりに救いは全く用意されません。
 “2.ヒロインが考えなし”について。文字通りです。ニュースを無理やり切ったり、バンドの崩壊の原因となる好意を隠さなかったり、最悪の秘密を説明しなかったり――ひっくるめて性格が無闇に悪くなっています。性悪ヒロイン萌えには最適かもしれませんが。
 “3.悪意なしに状況が最悪へと導かれる”という展開はちょいちょいあるのですが、本短編集では徹底されています。1のダメ主人公、2のダメヒロインと合わさって、目も当てられません。
 

 というように読後感はぐんにょり重いのですが、読んでいる時は圧倒/没頭されます。単語・形容・順番――文章が芳醇です。恐らくは原文・訳共にレベルが高いのでしょう。
 例えば『君微笑めば』のいらいらさせる話し方、『ニュースの時間です』の異様な住処など上げれば切りがないのですが、最も心に来たのは『輝く断片』での女性の治療シーンです。主人公は医者ではないのですが、有り合わせの器具と消毒をもって止血・動脈縫合・異物除去を自分でやろうとします。映画やこれまでの経験や見よう見まねで――そうして、愚鈍な主人公の手先の器用さと機転と記憶とが爆発します。

 湯の中でスポンジをしぼり、傷口を拭いた。ふたたび血がたまる前に、両側に押しひらき、中をのぞく。股動脈がはっきりと見てとれた。スパゲッティの切り口に似て、一箇所でつながっていたが、すぐにまた血で何も見えなくなった。
 かかとに尻をのせてしゃがみこみ、血まみれの手で無頓着に唇を引っぱりながら考えをまとめようとした。締めろ、ふさげ、はさめ。はさむ道具。
 (P366、最後の文章は傍点あり)

 ここから始まる一連のシーンの密度、緊迫感は比類ないものがありました。


 後の大雑把な短編ごとの感想は→輝く断片に関するつぶやきまとめ - ここにいないのは
 『ルウェリンの犯罪』『輝く断片』がお気に入りです。

 
 以上。スタージョンのSFとは違う側面を存分に味わえました。