七人のイヴ 上・下 雑感

 月を見ろ

「今はだめよ、パパ。月がきれいなのはわかってる。今デバッグの最中で……」

 あるいは月だったものを

「え?」
 彼女は窓に顔を近づけて、月の方向に首をひねった。そこにあったのは過去の存在であり、宇宙は変わっていた。
   (ニールスティーヴンスン.七人のイヴ 上(ハヤカワ文庫SF)(p.20).)


 ある日突然に何の前触れもなく、月が分裂した。七つの月の欠片が空に浮かぶようになり、やがて未曽有の事態へと進展していく――

 というSF長編。
 シミュレーション色が強い作品でした。
 地球が滅亡すると判明し、生存をかけて国際宇宙ステーションを生活の新しい場と無理やりするために全人類が奔走し、宇宙に生き残った数少ない人類もまた事故や政治で刻一刻と減っていく――という展開が明瞭な筆致で書かれ、何故そうなるのか、どうしてそうなっていくのか判りやすく読め、そしてどうなっていくのか興味が尽きず切り上げどころが難しかったです。
 地では慣れ親しんだ地球が滅びていき、デブリ放射能汚染といった宇宙の環境が人間に牙を向くという最悪な状況なのですが、その状況になる過程がそれはそれではらはらした緊張を楽しめ、その上でロボットを中心としたテクノロジの活用で対処していき、漂うユーモアで決して屈しないという姿勢はSFマインドとして好ましいものでした。
 2/3ぐらいまでは、このシミュレーションを大いに楽しんだ次第です。

 しかしカタストロフィを生き残った人間が定まってから、5000年(!)飛んで、第3部に突入した後は――うーーーんという感じ。
 や、あの生き残った極少数からデザインされた人類たちの未来図とか、オリジナル・イヴの7種族の後継が集まって地球への旅に出るというような有名どころでは「ハイオエリオン」のような巡礼は悪くはないんですよ。でも、こう圧縮され過ぎで味気ないですし、なによりここまで書くなら再度混在するようになった人類の未来まで見たかったです。


 以上。手放しでお薦めするほどではありませんが、良質なシミュレーションSFだったと思います。

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