星界の戦旗VI 雑感

 アーヴの帝都・ラクファカールが陥落し、帝国は散り散りに分断された。
 ――10年後、アーヴの攻勢が始まる。

 
 前からもそうでしたが、戦争SFとしての貌が全面に出ています。
 広大に過ぎる宇宙で<門>を遠く隔てた味方の別方面の安否さえ定かではなく、四か国が連合した敵の位置・兵力・目的はなおのこと確定的なものは得られません。それは敵からも同様であり、互いにひたすら情報を収集し分析し推測した上で、リスクを承知して蓋然性の高い計画を立てて戦闘行動を取ることになります。そして計画も相手の行動や追加される情報によって適宜修正をかけていきます。
 リスク――情報の統合と運用に失敗すれば、呆気ない敗北と死が待つということで。
 本書で書かれるのはその積み重ねであり、部分的に上手く行ったり上手く行かなかったりするのも含めて、星界での戦争らしさを味わえました。
 ただその空気が強いからこそ、これまで笑えてきたアーヴの軽口や諧謔がどうにも戦争の重さに負けてむしろぎすぎすした方に向かってしまうのも、また一つの趣きで楽しかったですね。
 
 
 またラフィールとジントの関係は継続しており、本書の唯一の清涼剤ではありました。
 しかし宇宙戦争という極めて時の流れが早いバックボーンがあり、致し方ない年月の経過を経て若干のずれが出てしまってきているのに哀しさを覚えます。

「ばか」
 わずかに気分を害して、ラフィールはジントの顔を見た。そして、目を離せなくなる。
 年をとったな――ラフィールはそう思った。
   (P122)

 ラフィールは無言でジントの頬に触れた。
「なに?」ジントは戸惑いを浮かべる。
 その表情は、ふたりが少年と少女であった頃を思い出させる。
   (P123)

 この2人の関係が戦争の中でどう変わっていくのか、あるいは変わらず終わってしまうのかも、シリーズにおいて目が離せないところかと。
 

 それにしても作者が後書きで戦争を100年より短い期間で終わらせたいと言っていますが、この宇宙規模できちんと決着着くのでしょうか?
 続刊が相変わらず待ち遠しい。4巻と5巻の間で9年、5巻と6巻のあいだで5年と刊行スピードが速くなっているので、次もそこまで待たないと良いなーと期待しています。

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