よふかしのうた3 雑感

 14歳の少年・夜守コウが吸血鬼の少女・ナズナの眷属になるため恋をしようとする物語の第3弾。
 前巻ではナズナの仕事を知り彼女の客と知り合ったように、今回もまた少し世界が広がっていきます。
 一つはコウが眷属になれるタイムリミットの通達。長期を見据えたのんびりした展開ではなく、終わりがそこまで遠くはなく、焦燥感を漂わせることになります。ただこれは読者としては今更な感じもあり、これはいま一時の少年の物語なのだと改めて明文化されたようなものです。
 もう一つはコウが憧れる男の友人の登場。ただし、こちらは恐らく次巻以降で展開しそうで、今回は深くは関わりません。
 最後は他の吸血鬼たち。ナズナがコウだけの血を吸うようになったことに興味を抱いてちょっかいをかけてきました。その中の一人、JKの格好をしてナンパしてくる男を誘うセリという吸血鬼が後半のメインを張ります。セリと、彼女を想いメンヘラになった男の――両方の拗らせ方が面白かったです。

(No.156)

 セリがコウと2人でカラオケに来て、そこの部屋のドアをメンヘラ男が叩いているシチュエーションでこうのたまう訳なのです。ナンパされてから手管を使って意のままに刹那の享楽を楽しみ面倒くさくなったら清算するセリの生き方という、ただここでそういう見たまま、予想しやすいままで終わるはずがありません。
 両方と述べたように、セリの反応にもおかしな所があると指摘され、セリを表面から見たらありきたりに見えた依存―被依存の関係が結構捻じ曲がった状況へと整理されていきます。
 メンヘラ男の過ち――ストーカーになってる時点で間違いだらけではあるのですが――は、セリと関係性を築く初期にメンヘラ男がメンヘラになる前に恋愛に関して拗らせて告げた言葉をセリと付き合ううちにのぼせ上って失ってしまったのが最大のものとなったのです。なにせセリはその拗らせた言葉こそに――と。
 それがどういうものなのかは読んでいただくとして、今回の話は一つのモデルケースになるのでしょう。長い時間生きてきて同じような生き方に飽きた吸血鬼が、普通から拗れた人間の言葉に絆された在り方への。
 なのでコウが初志を忘れないでいられるか、そして忘れられなかったからそれこそ――ナズナが最終的にどういう反応を返すのか、今後タイムリミットがある中でそれが気になっていくところです。

 なお言うまでもなく絵は最高にキレキレでした。

 (No.149)

 小さなコマの表情から何から何までらしいセンスで見ごたえがあり、眼福でした。


 以上。次巻も楽しみにしています。

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 <既刊感想>
  よふかしのうた1 雑感
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