実のところ最初は観るつもりはあまりありませんでした。
ここさけが合わなかったですし、オルフェンズは生理的にダメでしたし、映画館で何度か見たCMもなんかノレませんでした。
しかしtwitterのTLで予想外に評判が良かったので、流されやすい身としてはこれか観るしかと突撃しました。
結論ですが、観て良かったです。
人情物のド直球でした。
人生の選択の機微を、人生の賛歌を高らかに謳い上げていました。
人生の選択――これまで生きるために選んできたことを悔いてはいないか、誇れるのか。
功成り名遂げられず音沙汰がなかった31歳の慎之介と、東京にこれから行かんとする18歳のしんのという時間軸のずれた同一人物を同じ時間に用意する手垢塗れのガジェットで、理想と現実とを分かりやすく対比させていました。
過去の自分から未来の自分はどう見えるか。――夢見た自分になれているのか?
未来の自分から過去の自分をどう見るか。――色褪せた理想と未熟さを直視できるのか?
また好きだったしんのに着いて東京に行かず地元に就職した姉・あかねにとっては様々な人から、それこそ妹からも、直接的に口に出して、あるいは口に出さず勝手に他人の心中で問いかけられます。――妹のために自分を犠牲にしてきたのではないか、自分の幸せを大事にしろ、と。
またあかねに迷惑をかけずに東京に行こうとする妹・あおいは憧れた理想(過去のしんの)を再確認し、失敗したように見える理想の末路を見て(現在の慎之介)、理想をより強く想うようになりますし、彼女もまた犠牲で姉に恩を返そうとします。
――あかねの歩いてきた道は誇れるのか。
――あおいが歩いていく道は誇れるのか。
不思議なことはその過去のしんの周囲だけで、あとは地方都市の2人暮らしの姉妹と、13年ぶりに会った高校時代の元恋人の3人の、それまでとこれからの人生の選択を問い、問われていきます。
青春譚として、あるいは古き良きラブストーリーの手つきとして、極めて真っ当でした。
その描写は惑う物語を書くものとしてとして真摯でもありました。誰もかもが自分の生き方もよくわからないし、他人の生き方の評価なんて自意識の色眼鏡を通してしかしていません。
その齟齬は視聴者として傍から見ていると決定的です。あおいが慎之介やみちんことあかねをくっつけさせて幸せにさせようと目論んでもそれが本当に幸せなのかわからないし、みちんこがあかねが東京に行かなかった選択を清算させようとしても本当に後悔していたかなんて彼にはわかりません。自分から見た青い色が他人が見て同じ色なのかわからないように。
物語は終わりに向けてばらばらだった各自の想いが自己内の納得とそれなりの相互理解を積み重ねてあかねを中心に収束していくのですが、その畳み方は本当に綺麗でした。
しんのと慎之介の心残り――あかねを迎えに足る自分になれなかったのでは。
あおいの心残り――あかねは自分の犠牲になったのではないか。
ああ、しかし、と。
あかねが隠してこなかった想いと答えに、視聴者も他のキャラクタもたどりつき、「だから」好きになって良かったと肯定される――これ以上ないぐらいの締めでした。
そして、人生は終わらずこれから新たな局面が開いていきます。あかねにとっても、あおいにとっても。
併せて見事な、人生にまつわる物語の締め方と開き方だったかと。
なおビジュアルは最高でした。メインヒロインのあかねもあおいも造形は非常に魅力でしたし、動きも併せて美麗でした。
取り分け、あおいはマーベラスの一言。ベースを弾いている時のイケメンさは必見かと。
最後に落穂ひろい。
・個人的に好きなシーンはあおいがムヒをねだるシーンと、あおいとあかねが添い寝するシーンです。拙者姉妹百合大好き侍。
・OHP観て驚いたのは空を飛ぶアニメを作りたいという要望からああいう風に作ったことでした。空を飛ぶあたりはなんでそうなるかわからないですし、必要性も低くそうで、本当に映画から浮いていました。
・ガンダーラは特に思い入れもないので、そこは乗り切れませんでした。あとラストはしんのが空の青さを知る人よをきちんと歌って締めではなかったんでしょうか。
・あかねの内面はあえて直接的に描写していないんでしょうが、もうちょっと説明しても良かったんじゃないかなと思います。特に「あかねみたいになりたくない」と言われた時の反応は流石にもっと欲しかったですね。
以上。瑕はありますが、全体的には良い映画でした。
いずれもう少し書き直したり、書き足したいかも。
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