わたし、二番目の彼女でいいから。5 雑感

 桐島司郎は京都で一人、大学生生活を始めた。ぼろいアパートで生きているだけの灰色の生き方だったが、友達を得て次第に色づいていく――

 そんなこんなで前の巻で破局的な三角関係の終焉を迎えた彼が大学生となった新章です。

 おっかなびっくり読み始めたそこにはなんと、
 着流しを着て下駄を履いて胡弓を奏でる桐島くんの姿が――!

 吹き抜ける風のなかには、夏の匂いが混じりはじめていた。
「こんな夜はさぞかしいい音が響くだろう」
 大道寺さんがいう。
 俺はうなずいて、背負っていた胡弓をかまえた。
 胡弓とは弓を使って弾く弦楽器である。なにを隠そう、俺は着流しに高下駄を履き、胡弓を奏でるという桐島京都スタイルを確立していた。
「それではお聴きください。桐島司郎が作、『東山三十六峰』!」
  (西条陽.わたし、二番目の彼女でいいから。5(電撃文庫)(p.23-24))

 いやあ、あそこからまさか森見登美彦的な京都大学生生活物が展開されるとはとびっくりですわ。
 釣ってきた鮎を道路で焼いては食べ、目前の道路の清掃労働をかけて麻雀対抗戦で盛り上がり、一緒のアパートの学生と夜通し騒ぐ、おもちろおかしい貧乏学生の日々。
 過去の悲劇は胸を苛むけれども、リセットした新しい人間関係を楽しむ――


 だけではいられないのが本シリーズなので。
 次第にというか、なんというか、いやけっこう最初から、大学生生活がどろっと恋愛で染まっていく予兆と伏線が張り巡らされていたのでした。
 そこそう言う意味だったのか!!
 お前、それは自分からドツボにはまっていっているだろ!!
 と裏を説明されるたびに前作までに叫びまくっていた浜波並みのリアクションを取りたくなる次第。
 どうしようもない衝動――こいするこころを、どうしようもないわけではない理性で達成しようとしたり諦めようとして小細工してにっちもさっちもいかなくなるのは既視感があって。いやあ、ほんとこのシリーズは愉悦的に楽しいな、という感じです。


 以上。本作は新章で登場人物が揃ったまで。これからきっと地獄が始まるぞ――

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 <既刊感想>
  わたし、二番目の彼女でいいから。 1-4 雑感