漫画版『かがみの孤城』 1-5 雑感

 7人の中学生は光る鏡を通って城に招かれた。狼の面をした少女はどんな願いも叶えられる部屋の鍵を1年間で探す権利を与えられたと彼らに告げる。ただし願いを叶えられるのはただ一人――

 『かがみの孤城』というタイトルには先日公開された映画で初めて出会いました。鑑賞後に開けて効果が倍以上になる特典を含めて良い作品でしたが、尺の問題で1年間仲良くなる過程がちょっと駆け足で食い足りないと感じもしました。それで今回原作小説と漫画版を購入したのですが、漫画の方を先に読んでみたというのが本作にあたる顛末。
 いや、これが素晴らしい傑作でたまげたのです。
 それぞれの事情で学校に通っていない傷ついた少年少女が9時から17時までしかいられない虚構の城で、ただ彼らだけが集う居場所になっていく。

 (2巻、kindle No. 20)

 だべって、遊んで、お茶をして。個々人の事情には踏み込まない線を引いた付き合いでも、外の世界では得られなかった友達も出来て、聖域が聖域になっていく過程。
 他の生き方もあるという癒しを数か月単位でみせてくれて、こういうのを見たかったという時間の流れを堪能しました。
 そして1年のタイムリミットが迫ろうとして、同時に現実の問題がにっちもさっちもならなくなって逃げるだけではどうしようもなくなり、現実を生きていくために願いを叶える部屋への鍵を探しにいこう――と。ローファンタジーかくあれかしという現実と虚構の関り合いでした。
 全体に仕掛けられた大仕掛けも含めて、絵で最後まで魅せてくれました。

 なお最後の最後のオチは映画と真逆。映画を見ている途中ではこうなるかなーと予測したビターな方のオチでした。原作をまだ読んでいないのですが、こちらのオチの方がスムーズなので、おそらくは原作と同じなんじゃないでしょうか。
 でも映画は映画で全てを覆す大団円で好みに合ったので、媒体による改変も悪くはなかったのではないかと思います。


 あと漫画できゅんと来たのがおおかみ様の描写。
 ちょっとしたコマにおおかみ様がただそこにいたり、ひょっこりと隠れて見ていたりするのが描かれます。

 (1巻、kindle No. 104)

 そう、おおかみ様も1年間一緒にいたんだよな――という感慨が強くなる描写でした。これも漫画でしかできない技巧なんだろうなあと感嘆しましたね。


 以上。この漫画だけで完結する完成度が高く、出来の良いコミカライズでした。次は原作小説を読んでいきます。

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