19世紀末、王国派と共和国派で東西に分断されたロンドンを舞台にし、美少女5人組のスパイ団の活躍を描いたエスピオナージ物。
メインとなるのは2人、凄腕スパイ・アンジェと王国の王女・プリンセス。偶々顔が似ていることから2人を入れ替え、アンジェを王女につけることで、王国を自由に操ろうとするチェンジリング作戦がいずれ発動する――というのが大きなスパイ戦の仕掛けです。
ところがどっこい2人は昔知り合いであったというのがcase 2、放送順で言えば3話で明かされます。そしてアンジェはプリンセスと共に不安定な情勢のロンドンから逃げるため、ただそれだけのためにスパイとして生きてきた、さあ一緒に逃げよう、と告げます。
答えは否。プリンセスは嘗て貧民であったアンジェと知り合ったからこそ、アンジェとの壁を無くすために女王になる、とプリンセスは真逆の答えを返します。
それがこの現在のお話の始まり。
女王につくためには、今の有用性を示さねばらならず、プリンセスはアンジェと共に偶に入れ替わりながらスパイ活動を取っていくことになります。
チェンジリング作戦を逆手にとって真の王女が女王になる――それが2人だけが知っている世界に対する嘘。
2人以外は敵の、彼女自身が望まぬ作戦を手助けしようと決意したアンジェはこう宣言します。
私が騙して上げる。
貴方も、世界も、そして私自身すらも。
(第3話:case2 Vice Voice)
騙し騙されのスパイの世界で、騙そうという真摯な誓い。
この誓いの意味の重さは時間軸的には未来に位置する第1話/case 13で既に明らかになっています。そのラストでアンジェは嘘をつくのですが、そこでスパイのチームの面々も視聴者も、アンジェは非情な嘘を巧みになす優秀なスパイでありながら、彼女が守りたいものを捨てきれないスパイとしては致命的になりうる優しさを持ち合わせていることが既知となるのです。逆に言えば、どれだけ良心を痛めようと、情を捨てられるように生きてきた、と。
だから、大事なものを前にして騙すと決めたのならば、心が痛みながらそれまで積み重ねてきたものをうっちゃえてしまえると――そう最後まで在れると、騙してしまえます。
少女の嘘の強度が試されながら、caseが積み重ねられるのをぞくぞくして観ていくことになります。
なお、ネタバレしてしまうと、残念なことに、人としては幸せなことに、最後の最後まで騙せは出来なかった――というのがこのシリーズの結論です。
かつて一瞬会った幸せのために必死にやりたくなかったスパイとして成長し、その過去に誓った積み重ねた目的に背を向けて、今ここにいる大事なひとの目的を叶えるために必死に騙しに騙してきた中で溜まっていったどろどろとしたもの。ある大ネタ(プリンセス・プリンシパル――プリンセス役の役目の踊り手の意味を知った時の衝撃よ!)によってアンジェとプリンセスの積み重ねてきたものの意味が更なる重みをました上で、これまでついてきた嘘が当然のようにアンジェを裏切り、とうとう騙せなくなります。
そのクライマックスの甘美さは非常に見ものでした。
なにせまずあったのは、何にも比して輝ける少女たちの友情。
その尊いものが、鑑写しのチェンジリング――入れ替わろうとした際の根本の思考の不一致の歪みから、想いのすれ違いから、ぶっ壊れかけるのは、綺麗なものについた汚れを見る快感としては最上でした。
基盤がとっぱわれて、単なる「アンジェ」になったアンジェのうろたえ様の愛いらしさときたら!!
ああ勿論、それでは終わりません。少女たちの想いが、そんなもので壊れきるはずがなく。
でもきっと、それ以降は視聴者がそれぞれ見届けるものでしょう。
この2人の道行がメインなのですが、スパイチームの群像劇としても見事でした。
ドロシー――スパイ育成学校の同期。
ベアトリス――老若男女に変えられる機械の声の持ち主。
ちせ――日本出身の腕利き。
誰もがうまい具合にキャラ立ちしていました。それぞれのスパイの陣営の目論見に従いながら、少女たちが人間として相互理解を深めていき友情を深めていく全般のくだりは眼福でした。
ストーリーを話毎に個別で見れば11・12話以外はほぼ1話完結となっています。
殺陣が素晴らしいのと黒蜥蜴星人をあっさりと受け入れられて動揺するアンジェが可愛い5話、アンジェとプリンセスの過去の詳細が判明する8話が個人的に最も好みでした。ストレートなスパイ物として楽しめる6話、10話も好きですね。
11・12話は上記の感情の発露は好みでしたが、全体の展開としてはちょっと締まりがなかったかなーと評価が下がりましたね。
以上。瑕疵はありますが、総じて面白かったです。お薦め。
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