私たちが星座を盗んだ理由 感想

 メフィストに掲載された3編に書き下ろし2編を加えた短篇集。作者本人曰く、書き下ろした2編は4編の内から厳選したとのことです*1


 初めに作者の特性を私なりにまとめてみますと、確固たるルールに基づく現実離れした世界を少年少女の世界とほぼイコールにして成立させて、そこで世界の予想外/犯罪を起こし、謎解きによって“順接/世界の生成/ルールの正常運用”と“逆接/世界の裂け目/ルールの異常”とを明文化し、ルールを剥き出しにすることで世界を壊す物語を書く――となります。
 そのルールが明らかになる瞬間の快感は堪らないものがあり、処女作から虜になりました。本短篇集でも世界生成からの一連の流れに独特なものがあり、らしさに溢れていました。


 それでは1編毎に感想を書いてみます。そこはかとなくネタバレしていますが、致命的なものは避けるようにしています。

  • 恋煩い

 通学路で会う名も知らない先輩に恋した女子高生を主人公に、彼女が恋を叶えるためにおまじないを行うのを書いていくほぼ青春恋愛小説のノリで進んでいきます。男女の幼馴染がいて、なんやかんやあって、恋した先輩の良くない噂話を聞いたりするのですが、ほとんどミステリの雰囲気がしません。
 この雰囲気作りは良く出来ています。しかしぶっちゃけてしまえば、この短編はミステリ雑誌に載っている小説であり、何らかの事件が起こるのだろうという目で観ていく限り、何が起こるかはすぐ予測がつきます。犯人も動機も方法も隠す気がないのだろうというぐらいフェアです。二択を狙った可能性もありますが、もう片方の線が細すぎるので迷うまでもいかないと思います。
 にも関わらずある種の衝撃的な謎解きになっているのが、本作のたった一つの冴えた点です。さんざん作ってきた奥手な女子高生の世界をたった一言、最後の文章で破壊する――判っていても避けきれない見事な“最後の一撃”でした。

  • 妖精の学校

 記憶を無くした少年少女が新しい名前を与えられて、コミュニケーションしてはいけない魔法使いと隣合わせに島で暮らしていく――という幻想小説風味の短編。
 以降、瑞々しい少年視点で、人工的な島、近づいていはいけない『虚』、『落し物』、巨大な『影』etc、ひたすら現実離れしたファンタジーのイメージが積み重ねられるだけです。そうして島を離れることを夢見るエクソダス物としての像も強固になり、良質な痛々しさを感じるようになり――見事に、あまりにも見事に崩壊します。前の短編よりも、鮮烈な最後の一撃によって。どうしようもない最後の一文によって。
 今まで読んできたものが、作られた硬質なファンタジーの何もかもが、ひっくり返るトンデモなさは目眩さえ起こりました。この衝撃は伝えにくく、もう読んでもらうしかないと思いますね。
 兎も角も、本短篇集の白眉でした。幻想世界で物理トリックが冴え渡る北山ワールド、ここに極まれりという感じ。


 なお言うまでもないでしょうが、答えはこれですね。

  • 嘘つき紳士

 借金まみれの主人公がたまたま携帯を拾い、持ち主の恋人を騙して金を盗ろうとする短編。
 騙そうとする心理と恋人を騙す罪悪感の心理の両方の変遷の描写が肝でした。何と言うか、うん、いやーな話でした。出来はぼちぼちですが、心に残ります。ひょっとしたら映像化した方が映えたかもしれません。

  • 終の童話

 人を石にして食べる『石喰い』に襲われた村の少年を主人公にした短編。
 詳しくは言えませんが、なるほどこれは人を石にしなくては成り立たなかった事件だと納得した次第です。そうしたファンタジーの世界を成り立たせ、成り立たせたルールで事件を起こす手腕は作者の自家薬籠中のものなのでしょう。作者の特色が出た短編でした。

  • 私たちが星座を盗んだ理由

 89区画に88の星座。一個は少年が病床の少女のために盗んだ。だがどうやって?
 という内容。星座を盗むなんて綺麗な謎の提出ではありませんか。その時点で気にりました。なので残念に近い興醒めな解決はもうどうでもいいのです。がっかりしましたが、しょうがないと諦めました。が、解決方法が性格悪過ぎなので評価が上がりました。ああいう結末に持ってくる必要はないのですが、因果応報と言えましょう。

  • まとめ

 以上、北山猛邦ワールドに入るにはうってつけの短篇集でした。
 なおファウストに掲載された『廃線上のアリア』を愛しているので、早く書籍化して欲しいですねー。

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