のぼうの城 上下 雑感

 石田三成による忍城攻めを取り上げた時代小説。
 2万の兵を率いて和か戦かを迫る石田三成軍と、500人の侍を召し抱える成田家との戦――本来なら戦闘にさえもならなかった筈の多対少の妙で数奇な合戦を小気味好く書き切っています。
 前半でどうして合戦になだれ込んだかを書き、後半でどう凌いだかを描写するだけであり、非常にシンプルな筋書きです。その筋書きをごてごてと飾らず、むしろスピード感を重視した書きぶりであり、それが功を奏しており、リーダビリティが高い内容に仕上がっていました。
 そんな中でも、タイトルにあるのぼう――でく"のぼう"の昼行燈・成田長親を筆頭としてメインを張るどの武者たちも書き込みは少ないですがちょっとした描写でキャラをきちんと立たせていました。
 特に敵役である石田三成の造形がかなり良く、小利口で偏屈な既存のイメージと違った愉快な人物に仕上がっていました。

(俺もこんな戦がしたい。俺もこんな壮大かつ豪気な戦がしてみたい)
 急速に湧きあがった熱望だけが、三成の頭を一杯にしていた。
「俺もこんな戦がしたい」
 三成は、渦巻く湖水に向かってそう叫んでいた。
  (のぼうの城 上(小学館文庫)(Kindleの位置No.175-177))

 秀吉の備前高松城の水攻めを関の上から眺めて戦いたいと吠える三成――というのは本当に新鮮で。以降も模範あるいは浪漫を胸にする侍として最後まで魅力ある敵役を演じ切りました。

 難点としては紅一点の甲斐姫が本作の作りの中では余分だったかなーと思いますが、まあそこは人それぞれの感じ方があるかと。

 以上。なかなかの佳作でした。

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のぼうの城 上
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のぼうの城 下
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