待ちに待って、とうとう来てしまった完結編。
好きなシリーズに関しては相反する感情を抱きがちで、作品が目指した美しい終わりを見たいし、延々とその世界が閉じずに物語を届け続けて欲しいとも、都合の良い希望を持ってしまいます。だからこそまあ、打ち切りはダブルで切ないんですが、それは今回は関係ありません。
本作は幸いにして、幸せな終わりを迎えました。途中で刊行間隔が空き、不安にかられたこともなきにしもあらずですが、待ち続けて本当に良かった。
作品に触れる前に完結してしまったシリーズは兎も角、現在進行形で進んでいて惚れたシリーズの完結に対して誰かや何かの言葉を――良かったというポジティブなものも含めて――全く知らないまま相対する、どきどきわくわくする感覚。今後何度も味わいたいそれが最上の質で満たされました。
未読の方が億が一ぐらいいるのであれば、読もうとだけ。
では以下は内容に関してです。ざっくりしないとちょっと語り止めるところがないので、簡単に書いておきます。
初めにしごくどうでもいいことから語りだすと、このシリーズは「ぽしょぽしょ」という擬音に萌えをかなりな強さで付与しました。
美少女が照れて、歯切れのよい発音ができない様。
玲瓏たるクールな美少女や、空気を読む優しい同級生や、小悪魔的な後輩が「ぽしょぽしょ」と詰まりながら言葉を漏らすのに胸をきゅんきゅんさせてきた訳ですよ。
それで――我ながらどういう繋がりなんだと思いますが――本シリーズは言葉にしようとして言葉にならないものに纏わる物語でした。
主役の比企谷八幡は自意識を拗らせた高校生で、何も持たないと自虐するその身一つを削って、やりたくもなかった筈の様々なトラブルを解消していきます。彼がコントロールして自身が適切に阻害され傷つけば、彼以外の他の誰もが上手く進んでいく。他に方法がないから、その方法を選ぶのに誰にも文句を言われるいわれはない、と。それは彼にとってどうでもいい誰かのためになりながら、彼の奉仕部の仲間の望むためでもありました。
しかし彼もまた当然一人の人間で、奉仕部の他の2人・雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣は彼が傷つくのが間違っていて嫌だけど、ほらみろ正しい答えに導いているとうそぶくのに痛ましい目を向けるしかありませんでした。
拗らせた自意識を傷つけられるのにあたり、劇的なイベントなんて必要ありません。ただ高校生生活を送っていくだけで、決定的なものになります。夏休みの肝試し、文化祭、体育祭、生徒会選挙、卒業企画。誰もが自然に参加するちょっとしたイベントが、牙を向いてきますし、牙を向ける対象となります。
周囲への説明に余分にべらべらと喋りながらも適切な言葉が足らない主役と、言葉がかけられない2人。
でも八幡を含めた3人は、ゆっくりと時間をかけて、八幡が本当に欲しいものがわかってきてしまいますし、わかってきてわからなくなります。拗らせた在り方を是とする心をねじ切らせながら吐き出された「本物」という言葉。わかりやすそうで、わかりやすそうだからわかった気になりそうなそれ。
それは上手く言える人にとっては、たった一言で済むかもしれない何かで。
それは上手く行く人にとっては、ただ一つの行動で済むかもしれない何かで。
「一言言えばいいだけなのに」
「一言程度で伝わるかよ」
普通はそれだけでいいのだろう。
(やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。14(ガガガ文庫)(Kindleの位置No.4346-4348))
その一言、その行動を果たさないで、どう辿り着くのか――いやそもそも辿り着けるのか。傷だらけになりながら走っていく八幡に対して雪ノ下雪乃がどう相対したのか、八幡に対して由比ヶ浜結衣がどう相対したのか。
彼らの物語でありながら、読み手の心の根源に触れる豊潤な言葉で満ちていました。
あとはラブコメとしてもきゅんきゅんする回路が激回りでした。最後の最後で糖度がやばいのをぶちこんでくるとは感謝の念で一杯です。
サブキャラでは平塚先生も捨てがたいですが、誰か一人を上げろと言われたら、一色いろはが最高の後輩キャラでした。小悪魔系なのですが、あざとさとさ9割素直さ1割のバランスが神がかっていました。それに「ごめんなさい」の長台詞のハードル度合いがどんどん下がり、最後は地にもぐらんばかりになっても気づかれないあたりはほっこりしましたね。いろはが出張ってきてから作品の好き度合いが上がりましたし、むしろ出てこなかったら好きになれなかった感がありますしおすし・・・
他にもいろいろと語るところはありましたが、今回はこんな感じで。
以上。ラノベではオールタイムベスト級に好きな作品になりました。予定されているという短編集も楽しみにしています。
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