WHITE ALBUM2 〜introductory chapter〜 感想

 前作が出たのは1998年5月1日のこと。それから12年後の2010年3月26日、2の序章である本作が発売されました。シナリオ容量は全体の2割程度と言われていて有料体験版とも揶揄されていますが、滅法面白い(その面白さに癖はありますが)ので躊躇っているなら購入をお薦めします。
 初めに言っておきますと、買うなら初回限定版をお薦めします。書下ろし小説「雪が解け、そして雪が降るまで」を読むか読まないかで、作品の受け取り方が大きく変わってくるからです。2のclosing chapterが出る頃に本作をやろうとしてもこの限定版付属小説が手に入れやすいかどうか判らないですから、今のうちに手に入れといた方がいいんじゃないかと思います。1000円しか違いませんし。


 さて、2のシナリオライタは丸戸史明氏。発表された時は大体の人が驚いていたと記憶しています。しかしホワイトアルバムの売りとなった三角関係と修羅場を思いやれば、最適の一つだったと後付的に考えるようになりました。
 氏の作品はFOLKLORE JAM、ままらぶ、世界で一番NGな恋、ショコラ、パルフェこの青空に約束を――、をプレイしたことがあります。どの作品でも一見平凡でも誰にも届かぬ努力をしている(しかし報われない)主人公に複数のヒロインが恋をして、恋に破れたヒロインが影で泣いたり日向で応援したりします。元々のヒロインの性格付けが往々にして甘やかし/甘やかされ形質であり、一般的にいまいちな主人公に恋してしまうことと、破れても引きずるあたりを引っくるめてダメな女が多いと称される所以であると私は取っています。
 そういうものを書くのが上手い手腕をより修羅場の方向に舵を大きくやることで生まれる恋愛の鉄火場を見たい、そう思ったわけです。


 そして見事に鉄火場が生まれていました。もう、完全にぐだぐだです。
 主人公・北原春希は思考速度の遅さと要領の悪さを努力でカバーしてしまう模範的優等生にして――結構流されて生きるヘタレ。
 一人のメインヒロイン・小木曽雪菜は学園のアイドル的存在であって――その為に元々あった「仲間外れ恐怖症」をこじらせた駄目な女。
 もう一人のメインヒロイン・冬馬かずさは音楽の天才にして――性格をひねくらせたレトロな女。
 この3人が前作の曲「ホワイトアルバム」を奇跡のようなセッションで響かせ合い、出会ってしまった。それで厄介な関係にならないはずがないのかもしれません。そのことを判っていたのが雪菜だけなのですが、

 どうしてこうなるんだろう

 「仲間外れ恐怖症」にあらがえる訳もなく。いみじくも恋愛感情が篭っていられた最後の瞬間を評されて、

「でもさ…
 あんなにどうしようもなくなっちゃったら、
 これからが辛いよね、あの三人」

 と言われたように、3人とも己の性分に拠り、どうしようもない方向へと突っ走っていきます。にっちもさっちも行かないというやつですね。
 でもこれが性分にして彼らの生き方――そういう流れの書き方が抜群に上手かったです。ここでは今までの丸戸作品にないほど学生という精神発達の未成熟さによるダメさの揺れ動きが使われていて、こういう経験の積み重ねでダメに固定されて行くんだなあとナマ暖かく見守ることも出来ます。
 

 繰り返しになりますがヒロインの性格付けは、今までの作品からして当然ですが、良く出来ていました。
 特にかずさ。レトロと言いましたが、まさにそうで不良を見せかける態度、のめり込むだけのめり込んで胸に秘める恋愛の仕方、何時の時代の人間かと。作中人物にも『痛すぎ』『あり得ない』とまで言われます。しかしだからこそ、ホワイトアルバムの続編として正しいごちゃごちゃの恋に巻き込まれます。残酷な話ですがね。歪まずに生きる可能性は山ほどあって――そうあるかのように全てが手からこぼれていったとさ。
 雪菜もこれ以上詳しく言いませんが似たようなもの。考えれば考えるほど、つくづく作りの上手さに感嘆します。
 
 
 closing chapterに繋がる伏線はちらほら。例えば脇役の武也は女たらしなのですが、OHPのキャラクタ紹介で思わせぶりなことが書かれていて、それに

「春希、お前は俺とは違うんだ
 …俺みたいになって、俺を失望させるなよ」

 という正しく彼ら3人の関係を掴んだ上での印象的な台詞(告白したのがどちらからかも推測で当てています)を吐いていますし、女たらしになった理由が語られないのは惜しいエピソードとなっていそうです。ひょっとしたら番外編として他の媒体で語られるのかも知れませんが。

 
 推奨プレイ順は1周目→小説→2週目。初めに言いましたがこの作品をプレイするにあたってこの小説を読まないのはありえません。ただ読む際は扉にも書いてあるように1周終わって、2週目をやる直前に読むべきです。それによって2週目に追加されるシーンが単体でも良いのに、より一層活きてきます。2週目で追加されるのは彼女たちが何故そうしたのか、また彼女たちが主人公の知らない時に何をしたのか、簡単に言うと恋心が溢れ出てしまった諸々のシーンです。補われるのは1週目よりキツイどうしようもなさであり、そのどうしようもなさを更に裏付けしている感情を少なくともプレイヤは知るべきでしょう。全てが終わった時に、報いが来た時に、彼女たちが過ぎて行った今=過去を笑ってしまえるのを心待ちにするために。


 それにしても誰もどうすれば良いのか、どうしたいのかしっちゃかめっちゃかになり、続編は3年後。さて、その時点でどうなっていることやらという初歩の初歩から興味がつきません。


 絵はなかむらたけし氏。天使のいない12月と比べると微妙な構図が多くどうしたのかなと疑問です。
 演出は微妙。ライブシーンのセンスはしょうがない所ですが、強制オートが多用されているのは難儀しました。
 音楽・声は特に無し。


 以上。ホワイトアルバムの続編であることと丸戸シナリオであることがベストマッチした序章でした。これ単体でパッケージされるのは正しかったと思いますし、値段も手頃なので興味があるなら是非プレイをお薦めします。そしてモヤモヤして続編を待つ仲間になりましょう。
 

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