残暑の残る2学期、ひとけのない体育館の2階で授業をサボった2人の少女が出会った。
フラットで人の情に薄い島村抱月。
情緒未発達で人物関係に不器用な安達桜。
噛み合わない彼女らの関係はどう進展していくのか――
というような感じの百合小説。
形容するなら、ええ、そりゃもう、大変素晴らしい百合小説でした。
安達としまむらのそれぞの視点で交互に物語られるのですが、安達がしまむらにあたふたしながら力いっぱい懐いていき、しまむらが安達の押しをまあいいかと受け入れていく、のが基本の流れ。
この安達は見た目クール系の少女なのですが、目をぐるぐる回しつつ、しまむらしか目に入れないで突き進んでいくのがほんと楽しいです。
膝枕をしてもらう、股の間に座る、手を繋ぐ。
一杯一杯のモノローグから繰り出される、少女のアプローチは見事に挙動不審となっていました。
しかし内省がなければ錯乱ともとられかねない行動を、しまむらはそういうものだとすくい上げます。誰とも深く付き合わず特別を作ろうとしないけど、自分に対する特別扱いは何故か特別の意味をスルーして、はいはいこういうのがやりたいのねと行動だけは返してくるのです。
求められれば答えるけど、求めた以上は返さない。その距離間は全てが欲しいという渇望が強くなるのもしょうがなく。巻を重ね、安達はしまむらに対する要求は大きくなっていきます。
私は貴女だけを見たい、貴女には自分だけを見てほしい、と。
では、しまむらは。
情に薄く、求められるだけ答えるだけだったのも、否応なしにこれだけは理解します。
彼女にとって自分しかいないのだ、と。
全身全霊で来てしまう厄介な相手に中途半端な対応は限度があり、しまむらも己の結論を探らざるを得なくなります。
安達と一緒にいると、わたしの可能性というものは固定されていく。共に歩く相手を限定すれば自然、選択は淘汰されていく。良し悪しではなくそうした現実を見つめて、わたしは、思考する。当たり前だけど、わたしはわたしにとっての最良を選ぼうとするべきだ。
安達は他人のいらない道を選ぶことを決意した。
決意と言うと大げさだけど、高校生にとってその選択は大きな意味を持つ。
「わたしは、」
その言葉の続きをいつか見つけられるだろうかと、緩く、目をつむる。
(安達としまむら4(電撃文庫)(Kindleの位置No.1715-1720))
何を選ぶのか、誰を選ぶか。
それが6巻以降になるのですが、フラットな内面に波がうねる様が本当に胸がきゅんきゅんしました。
とあることがきっかけで、咆哮(!)と共にしまむらの心は自分を求める渇望に対面し一歩踏み出します。
ここでの自覚と無自覚の2つのアンビバレンツが愛おしい。
――尊くあって欲しいという祈り。
/だから楽しく、浮かれた彼女『かのように』自覚的に振る舞う。
――自然に心が浮き立つ。
/だから楽しく、浮かれた彼女『として』振る舞える。
祈り=熱が冷めるのが先か、本当に心の底から安達を好きになるか。
その裂け目をこれからも読んでいきたいと思いますね。
あとこのシリーズ、病みの描写の処理が凄かったです。
5巻で安達によって何十行にもわたる問い詰めが炸裂するのですが、しまむらの切って捨て方と、実際どうだったかの真相には転げまわって爆笑しました
それとサブキャラのどストレートな友人百合も良かったですね。
以上。大好きな百合でした。
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