見上げてごらん、夜空の星を 雑感

 天文部員の主人公は天体観測しないことで有名だった。しかし他校と合同で天体望遠鏡を作るようになってから、物語は動き出す――

 
 本作は天体観測を主に扱った部活物エロゲです。過去作に当たる『この大空に、翼をひろげて』がグライダーでモーニンググローリーを目指すという、極めて能動的であり絵的にも栄える題材と比べると、内向的なのは間違いありません。
 視点人物である主人公の内面もまた変えてきました。『この大空に、翼をひろげて』では自転車レースに全てを懸けていた主人公が己を懸けるに値するものを新たに外に見出すのですが、宇宙を観る天体観測という行為は失うことなどできません。上を見上げれば、輝いている星を目にしない筈がなく。しかし、本作の主人公はとある事情によりそれを直視できないようになっています。

【暁斗】「けど、その後すぐに不安が襲ってくる」
     「星に手は届かない……」
     「結局俺は、あの綺麗な場所を遠くから眺めるだけ、
     どんなに望んでも、どこへもいけないんじゃないかって」
     「虚空の闇に取り残されたみたいな気になって、
     不安で胸が苦しくなる」
だから、星を観なくなった。

 ところで、かつての文豪はこう記しています。

 自殺者は大抵レニエの描いたやうに何の為に自殺するかを知らないであらう。それは我々の行為するやうに複雑な動機を含んでゐる。が、少くとも僕の場合は唯ぼんやりした不安である。何か僕の将来に対する唯ぼんやりした不安である。君は或は僕の言葉を信用することは出来ないであらう。しかし十年間の僕の経験は僕に近い人々の僕に近い境遇にゐない限り、僕の言葉は風の中の歌のやうに消えることを教へてゐる。従つて僕は君を咎とがめない。
              (芥川龍之介、『或旧友へ送る手記』)

 この言葉に籠められた自意識の化け物ほどではありませんが、本作でもまた真っ当に生きるのを邪魔しているのは硬直した自意識でありました。
 最終的にぶち壊すのは――外からヒロインらが働きかけるのを待つしかないのですが、主人公もまたそんなテンションが低い鬱滞した自分を許せず内からガンガンと壁を叩き続けています。
 なにせどこにもかしこにも、少年少女の止められない衝動が流れています。
 青春の熱量が高過ぎ。


 美少女ADVとしては大まかに2つに分かれます。
 2人が並び立つ幼馴染物に流れるか、全く新しい恋を見つけるか。
 前者の二人のヒロインがどちらかと言えばメインヒロインの中でも特別な立ち位置ではあるのですが、ルートとしてはいずれも質・量負けず劣らずであり良く出来ていました。
 個人的には幼馴染物としてかなり優秀なので、非常に堪能しました。
 碧眼金眼のヘテロクロミアの少女との初対面での台詞。

【暁斗】「君の瞳、アルビオレみたいだね」

 という気障すぎる関係の始まりとか。
 長じても気安さは変わらず、幼馴染の美少女2人と露天風呂に入るとか。
 でも成長している証として男性器を見せる代わりに二人とも胸を見せ、その感想が来やすい幼馴染でいられない互いの性的な成長を意味しているとか。
 いやあ、青春青春と言う感じ。
 どれだけ徳を積めば実際その立ち位置になれるのか気になりますが、置いておきましょう。


 そんなこんなでどのルートも未来への展望・天体観測・主人公とヒロインとが恋人同士として互いに高め合って成長していくのは共通しており、前言のような青春の熱量が全編にこれ以上ないぐらいに溢れています。
 ひっくるめて、プレイしていて爽快かつ熱くなる良いゲームかなと。


 絵・音楽・システムは取り立てて言うことなし。


 最後に、あまりの美しさに打ち震えた、お伽噺を。
 とあるヒロインはそれまで己の中になかった展望を宇宙を観るという行為『電波観測』へ託します。とうとう見えないままだった夢や将来をえたことと、見えるものも見えないものも空に流れるすべてをひっくるめて聴くという行為とのシンクロはお見事でした。
 そして、

 なんて、綺麗な――宙からのレスポンス。


 以上。青春部活物のエロゲとして面白かったと思います。

  • Link

 OHP-PULLTOP オフィシャルサイト