観て書きたくなったので書きました。激しくネタバレしかないのでご注意を。
赤ん坊が初めて笑うとき、妖精が生まれる
そんな美しい出だしで始まる稀代の御伽噺――妖精ティンカー・ベルの物語。
しかし外見が美しく楽園めいた世界で生まれて、きゃっきゃうふふするだけで生きていく訳ではなく、妖精が生まれて即座に行われるのは才能の識別であり、ティンカー・ベルも例外ではありません。
輝いたのはハンマー、意味するのは“もの作り”の才能。
あまりにも激しい輝きに誰もが才能の大きさを予感します。
けれどもティンカー・ベルの欲したものは異なるということが判明してから、話は重くなる一方となります。
ティンカー・ベルはもの作りの妖精として学習していく間に、人間が住む世界にして妖精が季節を運ぶ行く先であるメインランドを知ります。不思議な“迷いもの”の流れてくる元であるとも知り、彼女はメインランドに行くことを切望します。“もの作り”の妖精は行けないと知らずに。
以降、ティンカー・ベルはかなり嫌な存在となります。まずはティンカー・ベルは自分が何もしないで同胞たる“もの作り”の妖精を散々くさします。次いで他の妖精に無理に四季の技術を請うものの、散々な目に合い、巻き込みます。
そうして何もかもから見放されそうになった時に皮肉にも彼女の才能は正しく発揮されます。誰にも直せなかった“迷いもの”の修復という形であり、間違うことなくタレントの証明です。淀みない過程と目映い結果――タレントの美しい発露に感動した同胞により再び宣言されます。
それがあなたの才能よ
自分を認められないティンカー・ベルにとってその認識こそが最後の絶望となり、彼女を快く思わない者に唆され、結果として妖精界の春を伝えるという機能に破滅を呼び起こしてしまうことになります。
ここまでの筋道の救いようのなさは普遍的なジュブナイルの抑圧と言えばそうなのですが、児童向けを超えて心に突き刺さってきました。
けれども、このように初めにしてはあまりにも重苦しい道を辿ってきたにも関わらず、再生は一瞬にしてなされます。当然のごとく、彼女のタレントとその憧れであったメインランドからの迷いものによって。
再生の風景は鮮やかなのですが、同時に醜悪さもとんでもなく含んでいました。手作業で行われていた非効率を外来産物による機械化による是正はあまりにも急激で、魅惑的で、恐らくは毒となっています。この変化が妖精世界を崩壊させる一因となってもおかしくはありません。
産業革命賛歌乙と思いたくなるほどの一連のシーンでしたし、ティンカー・ベルのタレント受け入れについても後ろ暗い事を思うことがないわけではありませんが……穿ち過ぎと言えなくもないので置いておきます。
それに児童向けと考えれば、刷り込む思想は悪くはありません(ぇ
閑話休題。
そんな訳で第一話の主題は春であり、重過ぎた感があるものの、概ね導入としては見事でした。今4部作になる予定らしいですが、完成された時には見事な現代に生じた御伽噺になるのでしょう。
なにしろ、最後に妖精は少女に出会います。
名はウィンディ。
それもまた一つの伝説の名前であり、妖精はまたもう一つの物語に繋がる為にも羽ばたき続けることになります。ガール・ミーツ・ボーイ――最強のイノセント・ファンタズムを支える美しい物語となるために。
以上。
観終えてForestをやり返したくなったと表明して、この駄文のおしまいとします。
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