製造人間は頭が固い 雑感

 統和機構に属するウトセラ・ムビョウ、彼は合成人間の素を作る製造人間であった。特別な立場に立つ"製造人間"ウトセラと、能力と目的がそれぞれ異なる合成人間たちとが己の論理を持って対峙し会話する――という短編集。
 ブギーポップシリーズの裏側というか、統和機構の裏側をざっくりと書いていました。
 収録されているのは以下の5編。どれもこれもアクションシーンは十分にあるにはありますが、基本的には対話と奇妙な論理の披露とがメインとなっています。


 『製造人間は頭が固い』――死にかけの子供を例外的に救う論理は?
 『無能人間は涙を見せない』――誰からも命を狙われる無能な子供が生存する論理は?
 『双極人間は同情を嫌う』――相反する少女たちが楽しいと思う論理は?
 『最強人間は機嫌が悪い』――目的のない最強が望む奇跡は?
 『交換人間は平静を欠く』――何でも価値を入れ替える能力者が未来の模範とする論理は?
 『製造人間は主張しない』――無能な子供は中枢となりえるのか――?

 
 対話を通して人間を変貌させるウトセラの、ウトセラ自身にも理解していない、論理がおぼろげに形作られていくというのがおおよその作り。
 その論理のルールは二つ。
 ――人類の可能性と、新たな奇蹟の使い道。
 そして先において多数派となるのはどのような存在なのか――
 それはまたこれまでの上遠野作品で流れてきているテーマでもありました。

「人間には自分たちを滅ぼしかねない危険な因子が多分に含まれている、その理由を知りたいんだよ。僕が手を出そうが出すまいが、次々と危険な能力に目覚めて、お互いに殺し合ったりするものなのかどうか、その辺を知りたい」
         (P132)

「君はそこまで割り切れないだろう。ああ、きっと無理だ。君は僕ほど異常ではない。だから君は奇蹟を求めずにはいられない。僕が最初から捨てているものにこだわらずにはいられない」
         (P237)


 これまでも能力者同士の戦闘の背後に、未来に何が勝つかのせめぎ合いこそが在ったのは確かですが、その論理が本作ではは非常にプリミティブに剥き出しになっていました。
 同時に、その先に例えば一致団結して宇宙を目指して叩きのめされても、例えば奇蹟を使って残り少ない人類を支配する不毛な答えが待っていたとしても、現在において現在の人類のままではいられない焦燥感もまた甘美なものでした。

 
 しかし実は本作はブギーポップ世界線のほぼ過去編となっています。どうつなげるのか楽しみですね。


 以上、シリーズ全体像を理解する良書でした。逆に今作品単体だと多分めがっさ厳しいと思います。

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 製造人間は頭が固い (ハヤカワ文庫JA)


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