昭和28年、7名が日本刀で斬りつけられる辻斬り事件が起きた。最後の事件は女学生が刀で切り殺されたもので、横には血に塗れた刀を持った男がたたずんでいた。女学生の恋人だという彼が全面的に自首したことで事件は解決するかと思われたが――
という感じに始まる長編ミステリ。
中禅寺敦子と呉美由紀とが探偵役を務める百鬼夜行のスピンオフシリーズの1作です。今回は美由紀が辻斬り事件の最後の被害者となった女学生と友人であったことから、敦子と美由紀の2人が事件に関わっていくことになります。
被害者も凶器も犯人も揃っていながら、「なにかがおかしい」と釈然としないところから暗中模索していきます。事件を追い説明をつけられる道理に辿り着けるか――というのが主眼の、ロジックに傾倒したミステリです。
美由紀の友人が言い残した「自分は女が日本刀で斬り殺される家系に生まれた」とは、どういうことか。
日本刀が人を殺す妖刀へと変わるのは、どういう時か。
そして、これまでの作品のように、遠くに追いやられようとする明治以前に起因して戦後新しい時代となる昭和になっても淀む人の心の陰が、さながら妖怪のように形となる――事件の根本の理となるのには相違ありません。
つまり、鬼なのは――誰か。
それらの異形・狂気の行動を説明する、その人なりで、人から人でなしの一貫した論理は大変美味でした。傍から見れば頭がおかしい与太へと、その人がどう辿り着いてしまったのかも含め、ロジックものの醍醐味でしたね。
そして動機に付随して生まれた、凶器が素晴らしかった。鬼の持つ刀になってしまった、日本刀。そうなった出自が出色。歴史と、偶然と、道理と、狂気――その無理筋をそう通すのかと言う手付きに感動しました。
――あとですね、百合としてもポイントが高かったんですよ・・・
美由紀と被害者が友人になったきっかけが露わになった瞬間の個人的百合萌えポイントが最高でした。やっぱり伝奇は殺し愛ですよ!
以上。天狗もそうですが、これぐらいの分量のミステリでも存分に楽しませてくれて、京極夏彦は健在なんだなあと感服しました。
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