夢に潜り込む技術が存在する社会。ドム・コブは対象の夢に潜って重要情報を盗み出す産業スパイだった。コブは自身の犯罪歴の消去と引換に困難な依頼を受ける。その依頼とは盗みだすのではなく情報を植え付けることだった――
という感じの導入。夢に潜り込むとはどういうことか、夢の中では何が出来るかを派手なアクションを交えてテンポよく説明した後、困難な依頼に応じるためにメンバーを集めることになります。夢の中でインスピレーションによって世界を作る“設計士”、他人に変装できる“偽装師”、夢の状態を維持する鎮静剤を作る“調合師”などなど。情報を植え付けて定着させるには対象にとっていかに不自然でなくさせるかが鍵なのですが、集めたメンバーがそれぞれの能力を活かして、対象を分析し、ブリーフィングを重ね、作戦を立てます。
また付け加えられる条件として、“夢に一段階入ると時間の流れが1/20になる”“目覚めるには衝撃(キック)が必要”というものがあり、計画は何段階にも複雑になります。その上に、対象は思考訓練によって夢からチームを弾き出そうとする撃退集団を有していた――となり、現場での臨機応変さも求められます。
こうした一連の流れは極めて由緒正しいクライム・アクション物でした。もう嬉しいぐらいにこてこてですし、夢という何でもありに見えるフィールドでロジカルに動くのは燃えざるをえません。
このクライム・アクション物の面と同時に、“夢に潜る”を題材にした作品が避けては通れぬ要素2つ――『夢と現実の境目の不確かさ』と『何でも叶えられる夢の方が現実よりも良いのではないかという問い』が全編で覆っていました。そちらの方が本質であるのかもしれません。
ここが現実なのか、それともここで死んだら現実に覚めるのか、失われた現実は夢で取り戻せるのではないか、延々と悩みます。無限のような問いにどのような答えを出すのか、或いはそうした問いを放ってきた山のような諸所作品を越えられたのかは、是非ご自分の目で確認して下さい。
ただ一つ断言出来るのは、古今東西において現実と夢を分けるガジェットに色々工夫を凝らされてきましたが、本作が1番クールだったことです。独楽の扱いのスタイリッシュさときたらもう、このセンスだけで御飯10杯いけます。これから作られる作品の高いハードルになりそうですね。
俳優については、ディカプリオも父親役なんだなーと時の流れを感じたぐらい。
以上。『ダークナイト』といい、エンターテイメントの枠を割り切れない何かで充満させて異質なモノに変容させる手腕が半端ありません。諸手を挙げて面白いとは言えませんが、最先端の一つの評価軸として見るのをお薦めします。
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インセプション
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