大図書館の羊飼い 雑感

  • 前置き

 最初に個人的なオーガスト作品の遍歴から。
 私がオーガスト作品に触れたのは「はにはに」からなのですが、見事に大嵌まりしました。保奈美という才色兼備で料理上手、その上に体のラインが出る黒の上着がエロイという史上最高クラスの幼なじみにぞっこんになり、魅力的なキャラが織りなす良く出来た学園の日常生活と、その先に現れるトンデモ世界に翻弄されました。それからPrincess Holidayバイナリィ・ポットと遡り、魅力的なキャラ・まったりとした日常・ワールドな展開という要素に惹かれ、オーガストに対してはかなり好意的な印象を持つようになりました。しかし続く「けよりな」で主人公の狭窄な性格付けについて行けずギブアップし、以降はスルーしていました。要はにわかファンということになるのでしょう。
 ただ『穢翼のユースティア』の評判がえらく良い上に薦められもし、購入する方向へと傾いていました。そんな最中に新作が販売されることになったので、先に買ってみることにしました。 

  • 感想

 そして感想なのですが、私はやっぱり学園物のエロゲを好きなんだなあと思い起こさせられました。ほんと、学園物エロゲとして素晴らしい出来でした。
 学生5万人が暮らす学園都市・大学のようなカリキュラムを組む学園という箱。
 純情かつ天然で、「人を幸せにしたい」という考えに忠実で、彼女に触れた人を良い方向へ感化していく影響力があり、緊張しいで緊張すると小声になり艶めかしい声を出してしまうという卑怯なウィークポイントを持つヒロイン・白崎つぐみを筆頭に、きちんと造形されたヒロイン・キャラクタ。
 生徒達を幸せにするために設立された『図書部』に属し、ビラ配りから始まりイベント運営まで広がる活動や、その活動に関して悩んだり喜んだりする日常。
 人の背中を後押しする『羊飼い』の噂を発端に展開される非日常的要素。
 それらを細部まできちんと設定した上で、『お約束の展開』と『都合の良い展開』とをごっちゃにせずに、違和感を持たせないようにプレイヤを物語の進みたいベクトルへと誘導していました。あえて谷を作るにしても、あまりにもあり得ない愚かな言動をさせて作るなどといった、無理筋はほぼ潰されていたように思います。
 非日常的要素の使い方も上手く、主人公と周囲の日常からなる小さな集団における問題提起と、世界という漠然とした大きな集団にコミットする上での問題提起とがきちんと等比になっていました。具体的に言えば、"人を幸せにするとはどういうことか"という話。人の選択肢と道筋とが判る本が並ぶ図書館とその本を元に人を導く『羊飼い』という大きな問題を、主人公視点で選択肢を選びながら主人公の人生を歩んでいく上でリンクしていき、世界への答え=ヒロインへの選択へと収束するのは構図としてお手本のように良く出来ていました。
 キャラ同士の会話劇もキャラのきっちりとした特性の上で密度が高く成立していました。『会話』こそがキャラ物の華かと。個人的に白眉だったのがとあるヒロインが選ばれないシーン。主人公ととあるヒロインは読書好きという共通項があり、他のヒロインを選ぶにあたり、ビルの合間に見える月の下で、I love youの訳の話を交わします。最後に心に踏み込んだ台詞は以下となります。

【筧】「私、死んでもいいわ・・・・・・とは言えないんだ」

 こういう手垢まみれを味のある物に嵩じさせた手腕は素直に賞賛したいと思いますね。
 そんなこんなをひっくるめて、学園物エロゲとしてこの上ないレベルでパッケージングされていました。
 今更ながらに学園物エロゲの面白さを再確認できたことは幸せの一言に尽きます。あとはそう、「はにはに」を好きになったのは間違い無かったのだと。

  • その他

 絵はべっかんこうと言えば通じて欲しい所。エロシーンでヒロインが仰向けになることが多いのですが、その絵がどれも画面いっぱいにヒロインが広がり、肉布団ぽくて和みました。
 システムは特に問題有りませんが、かなり長い上に共通シーンが多いために、シーンジャンプもしくは次の選択肢に飛ぶ機能は欲しかったですね。前のシーンに戻る方法のみはジャンプが用意されていたので、何かポリシーがあるのかもしれませんが。

  • まとめ

 以上。保奈美のような怪物級のヒロインはおらず、飛び抜けて凄いものは無いですが、総じて良く出来ていました。学園物のエロゲをのんびりとプレイしたいなら、迷わずお薦めです。

  • Link

 OHP-オーガスト オフィシャルホームページ