ブレードランナー ファイナルカット 雑感

 名作と名高いのですがこれまで縁なく観られてませんでした。2049の公開を控えてリバイバル上映されていたので、これ幸いにと観に行きました。
 なお原作の「アンドロイドは電気羊の夢を見るか? 」は既読です。

 
 地球に潜りこんだ4体のヒューマノイドレプリカントを専任捜査官/ブレードランナーデッカードが追跡する――というSF映画
 雨ばかり降って薄暗く似非日本の要素に満ちた奇妙な都市ロサンジェルスに、ヒューマノイドレプリカントや飛行車・スピナーなど未来の技術が溶けこんでおり、異様な未来のデザインとして確固たる実在感が出ていました。
 映像は基本薄暗いのですが、そこに人工の光がちらちらくるくると差し込み、人や物を間断的に浮かび上がらせます。その明暗は陰陽礼賛の美の権化という感じ。
 BGMのヴァンゲリスの音楽は流麗。
 そして現在から隔絶した未来にいる登場人物の感情の表出も見事。追われるレプリカントたちは人間では観ることがかなわない景色――"Attack ships on fire off the shoulder of Orion"という響きのなんと美しいことか!――を目にし、密度の高い体験をしながら、作られたものとして人間に生死を握られ、4年という寿命に苦悩します。なにせ彼ら自身が宇宙に出たかった訳ではありません。対して創造主たる人類の方は何を考えているのかさっぱりわからず、薄汚れた都市で今現在を維持するのに精一杯になっています。似通った造形でありながら、アイデンティティが成立しきっていないというのはお互いさま、技術的な進歩はより存在としての悩みを純化させる方向へと。これらを作品内では、追う者と追われる者、責任を追及する者とされる者という形でシンプルかつ要点を外さないように描写していました。
 それらの要素の上で未来や技術の細かな説明はされず、形式としては捜査官が逃亡者を追跡し殺す、というサスペンスがシンプルに貫かれます。 例えば20−30の質問をして虹彩などの肉体的反応からレプリカントと人間とを区別するフォークト=カンプフ検査も、メインに持ってきていいぐらいのガジェットで、これで丁々発止をしても緊迫した良い映像になるでしょうが、序盤だけでさらっとした扱いをされます。おっそろしく贅沢なイマジネーションの上にここまで禁欲的に一つの筋を通せるものだと感嘆しました。


 ひっくるめて異様に引き締まった映画になっていました。こんな代物が心の琴線に触れない訳がありません。なるほど名作と言われる筈です。

 
 演技ではハウアー演じる最後に残ったレプリカント・バッティの存在感が素晴らしかったです。クライマックスの一連の言動は凄いの一言。


 以上。面白いか面白くないかは兎も角として映画として素晴らしかったです。

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