安達としまむら 10 雑感

 安達としまむらもとうとう10巻目。8巻で海外旅行というエンディングが描写されたのですが、そこに至る過程をまだまだ拾っていくよーという感じでシリーズは続いています。
 前の9巻では高校時代のクリスマス、安達としまむらの2家族が集合しての確かに楽しかったイベントが書かれました。
 続く本作では今度は別離がメインとなります。

 春が町の七割を埋めた、そんな季節。私は明日、この家を出ていく。
 しまむらと一緒に暮らすために。
  (安達としまむら10(電撃文庫)(Kindleの位置No.107-108))

 安達としまむらとが2人暮らしをするために引っ越していきます。
 引っ越してからの、いちゃいちゃはそりゃすばらですよ。同棲の序盤でさえ、寝る前にしまむらが安達の髪を触り続けたり、鼻をなめたり、残り湯に興奮したりするので、誰も邪魔しないこれから更にどうなっちゃうのーと正座で待機するわけです。

 しかし本作で一番心を掴まれたのは、そのカップル具合ではありません。
 引っ越す前、安達が生まれ故郷と切断していく描写が本当に良かったんですよ。

 感傷的になりたいらしい、私は。
  (安達としまむら10(電撃文庫)(Kindleの位置No.172).)

 かつてバイトした中華料理屋に行ってみて最後の晩餐をとってみたり、偶然数年ぶりにあった高校時代のクラスメイト――日野と永藤とすれ違って簡単な会話を交わしたり、それはもう二度と行かぬ店であり、もうほぼ会わない人々です。けれどもしごくあっさりしたもので、改めて考えてみるまでもなくそんなものかなというぐらいの縁でした。
 では長年暮らした家と、母との別れは、と。
 安達が家にも母にも「行ってきます」とはもうとうてい言えない心持ちで、代わりに言う台詞が見つかりません。そして母もまた「行ってらっしゃい」というキャラクタではありません。
 だから母と最後に交わした言葉で、そこに感傷はあったのかの結論がとうとう付けられます。

 この一連の描写で今更ながらではありますが、安達はただただしまむらを選んだ――という強度が天元突破したのでした。
 そして一般家庭に生まれて普通に愛情を込められて育てられたしまむらが、ひたむきに過ぎるその安達を受け入れてしまむらなりの愛を返し、安達を最優先にしてしまえるのですから、これ以上ありえないぐらいにかみあったカップルの在り方として理想的でした。
 理想的過ぎて、完結し過ぎて危険ではあるのですが、幸せなら――きっといいのでしょう。
 そして幸せなのだと保証されているのですから。


 以上。あと2巻くらいのようなので、続きを楽しみにしています。

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 <既刊感想>
  安達としまむら 1-7 雑感
  安達としまむら8 雑感