魔法少女リリカルなのは(メガミ文庫) 感想

 原作者による小説の感想です。A'sが放映された2006年に出版されたものであり今更な話ですが、『The Movie 1st』からなのは趣味を始め、逆算している身なのでご容赦を。で、この小説は『The Movie 1st』と一味違った内容であり、なおかつ構成は『The Movie 1st』のコミカライズとは相似になっているという趣を感じたので簡単に書いてみました。


 本作はプレシア・テスタロッサ事件が解決した後のお話であり、なのはとフェイトとの最後の決闘をメインにおいています。冒頭で決闘直前の決意を書いて盛り上げ、そこから一転し決闘に到るまでの彼女たちの始まりと経緯が、彼女たちの視点に沿って語られます。多分、アニメでは秘められていたことまでも語られていました。


 始めになのは視点――天賦の開花について。なのはの天賦の才能――魔力の条件はこう明記されます。

 なのはの保有する才である莫大な魔法量と瞬間出力。そして、優れた遠隔制御能力。
  (P46)

 その才能がただ只管に実戦においてのみ引き伸ばされ、圧倒的防御と誘導操作弾と一撃必殺の砲撃で闘う「砲撃魔導師」という一つのスタイルに組み立てられつつある過程――散々見ただろうアニメにおける彼女の勇姿がクロノの感慨と共に再評価されます。他者の視点を混ぜることで、言われてみれば無茶苦茶な戦闘履歴だと再認識させれられましたね。この再認識が、後述される優秀な師による訓練によって完成したフェイトとより強く対比させていました。
 ここで同時に、誰もが見落とし、クロノさえも魔法の消し方という些細な違和感だけで見過ごした、なのはの最大の仕掛けが用意されていた――というのが燃える話で。
 また才を支えたなのはの思いも存分に語られました。この語りによって、ソファーで膝を抱えていた孤独の思い――悪い人はいないと知り、自分が泣いても何も憎まないと決めた心の形が顕になったと取りました。


 対してフェイト。まず彼女視点に明確な言葉にならない思いを吐かせ、次いでアリシアリリスの視点を介して、名もなき人造生命が“フェイト”になるまでを明らかにします。
 アリシア視点は語り直しに過ぎませんでしたが、プリシアが死んだメカニズムが書かれたのに個人的にすっきりしました。本命は戦闘の師であるリリス視点。リリスはフェイトの素質をこう評価します。

 フェイトの戦闘資質は、連射に優れた固く鋭い射撃攻撃と、身軽な機動性を活かしての高速戦。そしておとなしげでか弱い外見からは予想もつかないほどに研ぎ澄まされた近接戦闘の能力だった。
  (P110)

 この才能を活かすためにリリスは電撃と拘束の魔法を体系的に教えて、フェイトを「高速戦魔導師」として育てて完成させます。しかしリリスはフェイトの能力の高さを認めながら弱点を指摘します。絶対的な防御の持ち主への対処は難しい、と。


 そして決闘。今まで語られた条件を下に、砲撃魔導師と高速戦魔導師との手持ちのカードを全て出し切って戦闘が繰り広げられます。その噛み合いの戦術の妙はさておき、訪れる結末――具体的な方法さえ、私たちは語られるまでもなく既に知っています。

 「星の光」の名は、そこから来ている。
  (P177)

 しかし、今まで述べてきたように、その最後の魔法に至るまでがどちらの視点からも詳細に述べられているからこそ、余計に熱く燃える効果的なラストシーンとなっていました。


 文章は御世辞にも技巧的ではありませんでしたが、伝えるべきことはきちんと伝わってきたので問題ないでしょう。


 以上。決闘に主眼を置くことで上手く語り直していました。これをブラッシュアップしたのが、恐らくは『The Movie 1st』コミカライズとなるのでしょう。

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 参考:魔法少女リリカルなのは MOVIE 1st THE COMICS 1 感想 - ここにいないのは