パンズ・ラビリンス 雑感

 舞台はスペイン、時代は内戦後。少女オフェリアは大尉と再婚した身重の母に連れられ、軍の砦に移り住んだ。ある深夜、彼女は虫/妖精に誘われて、迷宮の中心に辿り着く。待っていた旧き者・パンにオフェリアは地底の王国の姫君の再生だと告げられ、地底の王国に戻るための試練を与えられる。

 まずは貴女を確かめなくてはなりません
 あなたがかつての姫君のままか
 ただの人間になっていないかを
 満月の夜が訪れる前に
 3つの試練に耐えるのです。

 そして、政府軍と反乱軍の交戦が激しくなる中、3つの試練を果たすために、オフェリアは悪夢のような世界を巡っていく――


 という感じの内容。パシフィック・リムがあまりにも面白かったので、ダークファンタジーとして評判が良かった本作を観てみたのですが、確かに期待を外れない非常に高いクオリティの作品でした。
 まずシナリオですが……、これは非常にシビアなものでした。まず現実パートはそもそもが重苦しい展開に終始します。。義父になった大尉は独裁的かつ暴力的であり、これから生まれてくる赤子にのみ注意を払い、付いてきたオフェリアをお荷物のように扱います。味方になってくれるお手伝いも反乱軍との綱渡しでいっぱいいっぱいなところがあります。唯一の拠り所である母もオフェリアのおとぎ話好きにはいい顔をせず、大尉の機嫌を優先します。それでも母親には心を許すのですが、妊娠中の長旅のせいで体が弱っていきます。そうして、オフェリアは現実の人間関係を失いつつあり、世情も政府軍と反乱軍の一進一退であり砦は危険にさらされ、どんどんと追い詰められていくのです。
 幻想パートは追い詰められていくオフェリアの前にある種の救いとして現れます。枯れかけた大木の下に住むオオガエルに挑む第一の試練、目のない怪物の住居に挑む第二の試練etc、クリーチャーの奇怪さがフックになるものの、目の当たりにするのは魅力にあふれた世界。未熟な子供が幻想に耽溺するのに納得が行きます。
 だからこそ、最後の月夜。現実と幻想の交差の、何たる哀しさか。

 あなたの魂は永遠に人間の世界にとどまるのだ
 人間のように老い
 人間のように死ぬのだ
 あなたの思い出は時とともに薄れていく

 魔法なんか存在しないの
 あなたにも 私にも 誰にも


 ――物語に捧げられた少女の魂に幸いあれ。
 厭な物語ではあるのですが、退廃の美としては正しい完結かと。


 なお映像に関しては見事の一言。超現実の想像力は類を見ず、またその想像をきちんと映像に落とし込んでおり、天下逸品なグロテスクの魅力にあふれていました。
 あと美少女を汚す映像としても超最高。
 虫まみれ、泥まみれ。
 いや、それはそれで別の意味で堪能しました。


 以上。間違いなく一見の価値があるダークファンタジーでした。

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