京都の町をぽんぽこ仮面が駆け、怠け者が寝たおし、週末を謳歌するカップルがぎゅうぎゅうのスケジュールをこなし、週末探偵の助手が方向音痴で惑う――
祇園祭の宵山・山鉾巡行の2日間に起きた不可思議な小冒険を書いた京都小説。
とぼけた愛すべき面々が好き勝手やって、たまには一緒に騒いだり、抜群のタイミングですれ違ったり、無秩序の玉突きのように跳ねまわっているうちに何故か次第に収束していく手付きはもう十八番の名人芸と言っていいかと。
今回もまた面白おかちいお話でした。
取り分け、タニシのごとき在り方と評される怠け者の動かし方が上手かった。事あるごとに寝るわ、怠けるわ、ぐずるわ。
「アア僕はもう、有意義なことは何もしないんだ」
空と海の間に足りないものは、もはやお嫁さんだけだった。
さて。
読者の方々はご存じのように、現実の小和田君は薄暗い蔵の中で眠っている。
(聖なる怠け者の冒険(朝日文庫)(Kindleの位置No.1098-1101))
またしても冒険的気配が立ちこめ始めた。
「困ったもんだ」と彼は思った。
(聖なる怠け者の冒険(朝日文庫)(Kindleの位置No.2439-2440))
眠れ、小和田君。眠れ。
主人公だから頑張らなければいけないなんて、いったい誰が決めた?
(聖なる怠け者の冒険(朝日文庫)(Kindleの位置No.1106-1107))
しかしふとした好機にはすけべ心を覗かせ、押しに押されれば中途半端に負けてうろちょろします。大人物に見えたり、小市民だったり、一定しないのですが、その人物らしさという振舞でした。
祭に落ち着かない京都と能動的に揺れ動く他の面々を傍目に、ふとすれば横になろうとする彼をどう転がしていくのか、あるいは頑として動かないでいられるのか、はらはらと読むようになり、もうその時点でこの物語に敗北して嵌りこんでいたということになります。
その他、無限蕎麦という阿呆なイベントとか、金魚の赤い幼女の幽玄さとか、読むフックも多く、読み応えがありました。
以上。やっぱり森見登美彦さんの小説は好きですね。
- Link