北宇治高校吹奏楽部を舞台に、ユーフォニアム奏者・黄前久美子を主人公とした1年間を描いたアニメ。
なあなあで弛んでいた部に優秀だけど厳しい顧問がやってきて、腐らず残っていた力ある2年・3年部員が奮起し、初々しい1年生たちが真新しい風を吹き込み、彼らの音楽を作り上げて奏でていく――という王道の展開が繰り広げられます。
魅力的なキャラと、リッチな映像と、場面にマッチして調整された音楽を筆頭にあらゆる部分で質が高かったです。
全てひっくるめて観ていて引き込まれる文系スポ根部活物の快作でした。
部活物の醍醐味に未熟な少年少女が人間として悩みながら成長を遂げていくのと、競技者としての技術が向上するのがシンクロするカタルシスがあると思っているのですが、今作もそこに趣きを感じました。
その上でこの作品を成立させていた扱いと表現で好きだった点は2つあります。
1つは原風景――なぜ始めたのか。
もう1つは推進力――どうして続けるのか。
例えば巧みなトランペット奏者の高坂麗奈は「特別になりたい」という渇望をもって、プロを目指して己を磨いています。
高校生になってから楽器を始める人間も、どうしてその楽器を始めることになったのかのエピソードがあるし、その楽器を楽しむようになったきっかけがあります。
あるいは飄々とした先輩の田中あすかは、2歳の時に離れ離れになった父親とのユーフォニアムと出会った思い出を胸に秘めて演奏し続けてきていました。
そして主人公の黄前久美子。先輩や同期の悩みとその解決を何度か目の当たりにし、彼女も先に楽器を始めていて憧れた姉とどう折り合いをつけるのかという問題が待ち受けることになります。
始めたきっかけの揺らぎ=アイデンティティの揺らぎと同時に、頼れる先輩の田中あすかの問題に関わることでどういう音楽を理想として続けていくかがいつしか久美子に生まれていっていた――というあたりを描く2期の後半は難所ではあるものの、重要でした。
あすか先輩のようになろう――と思える人物に出会えたありきたりな奇跡を描くには、それなりの手続きが必要だったのかと。
さて、ある程度解決して新たな年度を迎える前、久美子が去っていくあすか先輩を想い一人吹いていたところをこう声かけられます。
「黄前さん、あすか先輩かと思った」
次いで、田中あすかとの別れにこう告げられます。
「今度は黄前さんが後輩に聴かせてあげてよ、その曲」
誰かを望んだ音楽はきっと誰かに引き継がれていく――あまりにも見事な連鎖のバトンの繋ぎ方と、シリーズの締め方だったかと。
あと語りたいこととしては、部活物には卒業がつきもので。
ラストでもう二度と戻らない日々が訪れるのを前にし、去っていく先輩たちを除いてこれからまだ続いていく後輩たちだけでかつて共に奏でた音楽を紡がれます。感謝と離別を込めて。
部活物を味わうにあたって、こういうのを見たいんだという光景の最たるものでした。
なお好きなカップリングは素直に黄前久美子×高坂麗奈。
1期の8話と11話は神でした。
是非是非御覧じろ。
余人が入ってこられない絆とはこういうものだと叩きつけられました。
以上。良い作品でした。これでアニメ関連は全部触れたことになるので、原作をようやく読むこととします。
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