緋色の囁き<新装改訂版> 雑感

 厳格なお嬢様学校である聖真女学園高等学校に転入させられた冴子は自らを魔女だと語る女生徒とルームメイトとなる。そしてルームメイトが焼死体で発見された夜から、女生徒を被害者とする連続殺人事件が起きるようになった――

 という感じに始まる、綾辻行人氏による初期の長編ミステリです。学園が舞台でもあり、思春期の少女たちがメインであるのですが、学園ミステリというと何かイメージと違うぐらいに殺伐とし、また女生徒同士のキスとかあるのですが百合として消費するのもちょっと無理がある陰鬱具合でした。
 ミステリ的にはフーダニット、誰が女生徒たちを殺しているかが主眼となります。視点人物であるが家族が殺された生き残りであり夢遊病のように夜胡乱になる冴子か、或いはお嬢様学校の中でもひと際目立つお嬢様でありながら裏の顔がある彼女か、或いは他の――、と。
 そして本作のモチーフたる緋色=赤=血の色が全編を彩っており、間章で語られる赤い赤い血の夢を現実に見ているのは誰か――とも繋がります。

 少女は夢に遊ぶ。
 夢を彩る色は、赤。──鮮やかな赤、深紅、緋色。
 身体を流れる血の色。掌で震えていた滴の色。壊れた車の窓から突き出た傷だらけの上半身──路上に広がった染みの色。死んだ小鳥を染めた色。潰れた猫が吐き出した色。……
 (緋色の囁き 〈新装改訂版〉(講談社文庫)(Kindleの位置No.2574-2578))

 そして主人公の冴子が垣間見る赤い夢との関連は、そこがイコールで結ばれ、赤い夢が現実の殺人事件に結ばれたのか、と。
 本当に語り手の理性と倫理は信頼できるのか、そして死体を生み出しながら何食わぬ顔で日常を過ごしているのは語り手を含めて誰なのか――王道のフーダニットでした。事件が二段階なのは少し綺麗ではなかったですが、意外だけど腑に落ちる犯人を作れていましたし、手堅いミステリと評して良いかと。
 
 それにしても「魔女」の意味する儀式とか盲点となる人物とか、Anotherの原型というか、綾辻さんの手癖なのでしょうかね。


 以上、ぼちぼちでした。

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