情報素子及び電子葉が一般化した超情報化社会で『知る』ことを突き詰めるSF。
ネットワークで簡易に調べられるようになり未知が速やかに既知と化す中で、『知る』とは『悟り』とは『未知』とはと問われていきます。
まずこうした一つのガジェットにより、定義の再認が行われる流れと定義づけの結論が見事でした。次いで極限まで『知る』ことを極めたらどうなるのか、何をするのかという、乗り越えられない限界や問題の設定がまた上手い。そしてその答えと――限界の突破。ありえぬことをありえるようにしてしまう、大きなホラの吹き方が本当に素晴らしい。あれよあれよという間に、目の前で世界と常識とが変わって行きます。
そして世界が変わったことで社会/人の営みがどうなったかが、エピローグの最後の一行でさらっと語られます。それはまた、物語全体の幸せな終わりのひとかけらでもありました。お見事な最後の一撃かと。
今までの作品を通して読んできて、やっぱりこの作者は『特異点』を書き出そうとしているんじゃないかという確信が強くなってきています。綿密な下準備と大胆な仕掛けにより、人が決定的に変容する丁度その瞬間を書く――書こうとする意思までは兎も角、書けてしまっていることは端倪すべからざる才能を持っていると評しても妄想に過ぎることはないんじゃないかと思っています。
以上。作者が早川で初めて挑んだオリジナルはどうしようもなくSFであり、傑作でした。文句なしにお薦めです。
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