星を創る者たち 雑感

 太陽系内の衛星・惑星での大規模工事におけるトラブルとその解決にエンジニアが挑む――という土木SFの連作短編集。
 
 月面に隧道を設置する工事の圧送システムの不調、火星の水資源開発現場を覆う与圧ドーム内での二酸化炭素濃度の軽微な上昇、水星でのマスドライバ建設予定地の多角測量で生じた偏りのある誤差、などなど。
 ちょっとしたシグナルが観測されて技術者がこれはおかしいと気付き出すも、もう事故は起き始めてしまっているという始まりが多いです。

 重大な事故や労働災害は、かならず些細な齟齬をともなっている。日常的な作業に生じたわずかな不具合が、いくつも重なって破局をもたらすのだ。そのような事態を回避するには、普段から前兆を見逃さない姿勢が重要だった。
  (谷甲州.星を創る者たち(河出文庫)(Kindleの位置No.644-647))

 破局/機材の破壊、人命の損傷、工事の中止、ひいては惑星開発の凍結。
 タイムリミットがある緊迫した中で、観測結果の解釈、建てられる仮説、仮説に基づいた施行可能な対策と確かに進んで行くのは、人間が技術と環境の困難に立ち向かうSFとして非常に満足度が高かったです。

 だがしかし――と根底に密かに畏れが流れています。

 ──我々は急ぎすぎているのだろうか。
  (谷甲州.星を創る者たち(河出文庫)(Kindleの位置No.543).)

 人類は惑星を開発するに足るのか、と。
 そして、今まで張られた伏線と、使用されてきたテクノロジと、人間のテクノロジに相対してきたプロブレムとが、表題作の最終話「星を創る者たち」においてひっくるめて炸裂するのです。
 事象が複雑に絡まりあい、しかし論理は意外にシンプルで判りやすい――よくぞここまで見事に纏めたものだと感心しきりでした。なんというか小松左京的に豪腕で巧いとはこのことかという感じです(比較が良いかどうかは別にして、個人的には最大限の賛辞)。
 
 最終解決の絵面がやや地味なのがちょっともったいなかったかなーと思いますが些事ではありますね、ええ。

 以上。良質なSF小説でした。お薦め。

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