螺旋のエンペロイダー Spin4 感想

「なんで自分に訊くんだ、みたいな顔をしているが――君に訊かないで誰に訊くんだ? 君こそが、この世界の支配者じゃないか」
       (『螺旋のエンペロイダー Spin4』、P250)

 

 全ての征服者、領土のいらない皇帝、可能性の君臨者、統和機構でさえ伝説と噂される概念――エンペロイダ―。
 本作は謎に包まれたエンペロイダーを巡り、異能を持つ少年少女たちと、そして統和機構さえも翻弄される様を書いてきた<エンペロイダ―>シリーズの最終巻です。
 四つの存在が天から降ってきた痕跡"牙の痕"。そのうちの一つである虚空から妊娠した胎児が成長した少年・才牙虚宇介と少女・才牙そらを主人公に一応はしているものの、上遠野作品のいつものように群像劇の要素が色濃いです。そしてこのシリーズから入った場合は恐らく9割以上何言っているかわからないぐらいにシリーズ要素の強い作品でした。
 逆に言えば本作は今までの積み重ねがあるからこその、特異な面白さに至っていました。


 ただ個人的に読んでいる最中はこいつは凄いことをしていると興奮していたのですが、いざ読み終わって何に興奮したかと文にしてみようとするとなかなか上手いこと言語化出来ません。ちょっとまとめきれていないのですが、いつかきっと上手く言える時が来ると良いなと願いながら現段階でどう考えたか残しておきます。




 さて。
 簡単なおさらいになりますが、これまで上遠野作品において語られた未来はざっくり言うと二つでした。
 一つは<ナイトウォッチ>シリーズ。虚空牙がもたらした大打撃による地球の滅亡と人類の宇宙への拡散。
 一つは『冥王と獣のダンス』。奇蹟をもたらす使い手の有用性の転換による荒廃した地球での再復興の兆し。


 そして現代日本を舞台としたブギーポップでも未来と繋がるようなタームはそこかしこでみられました。第1作であるエコーズが虚空牙の最初期の尖兵だったり、最強の能力の発展形である<ザ・スライダー>だったり、その他も作品間で曼荼羅のように思いもよらぬ複雑なつながりをみせます。
 それを本シリーズでは更に力強く後押ししていました、
 例えば世界で初めて見られる超高エネルギーが出現する自然現象――相克渦動励振原理における<ナイトウォッチ・エフェクト>。
 例えば奇蹟使いの増加。MPLSのような才能ではなく、技能による異能者の意味するところ。
 などなど、虚空牙の人間観測の経過を含め、現在と未来とががんがん関連付けられていきます。加えて未来に繋がる現在が膨れ上がる最中に、仄かな可能性が提示されます。
 可能――未来への備え。敵対した場合滅亡させられることが確定に近い、あまりにも隔たっている存在/虚空牙への対抗と、社会の後退と荒廃に繋がった異能が特権に落ちた未来の変革――奇蹟使いの在り方の変容とが、そこはかとなく始まろうとしていたのです。
 それではこれまでシステムとして働いてきた未来に抗う統和機構の本質とは――と思考が還り、そのあまりにも遠すぎる未来への現在からの朧な意識の仕方と影響に実にぞくぞくとする驚嘆を得ました。
 これまでブギーポップシリーズは巻を重ね、先のない可能性が世界の敵として倒され、先のないMPLSが現在にそぐわないと処理され、"現在"の数多の可能性が潰えてきました。それで屍で作られた過去が積み重なり、起こりうるディストピアに近い未来が語られてきました。
 じゃあ、ひょっとして、この巻でされようとしたのは、現在を語ることで、潰えない"現在"の可能性を持って操作されうる未来をも同時に語ろうとしたのではなかろうか。その壮大稀有な時系列の操作に幻惑を覚えました。
 ことここにおいて、上遠野作品は新たな達成をしつつある――。


 ――と、まあ妄想するのでした。
 あくまで妄想なので、今後どう動いていくかで全く的外れになるかもしれません。――でも、ここで得た戦慄は愛すべき作品群についてきた結果得た宝物だと信じています。


 以上。一ファンの戯言でした。

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