五等分の花嫁 1-14 雑感

 高校2年生の上杉風太郎は五つ子の美少女と出会い、親の借金を返すアルバイトのために彼女らの家庭教師になった。
 5年後、彼はその中の1人と結婚式を挙げることになるのだが、いったい誰とだろうか――

 という学園ラブコメ
 赤点すれすれの低空飛行の五つ子の成績を何とか引っ張り上げて家庭教師を続けられるように引っ張り上げながら、姿かたちはほぼ一緒で性格が異なる彼女たちとフラグを立てていくことになります。
 この漫画は学園ラブコメにあるまじきと言っては変ですが、テンポが非常に良かったです。序盤では五つ子と仲良くなれず勉強が成績が上がらずいつ首になるかのハラハラをストーリーのフックとしながら、ヒロインを読者に定着させるためにやや時間をかけて少しの退屈さがありましたが、キャラを立たせた後は停滞する暇なんてありませんでした。
 ヒーローの風太郎にとってもそうですが、ヒロインたる五つ子の個々人なりの個性によるエピソードの入力と解釈によって、出力される恋ごころに濃淡や自覚の程度が生まれていくのが本当に読んでいて楽しかったですね。瓜五つに見える五つ子は個性が強いけど見た目のそっくりさを活用して入れ替えを頻回にするので、誰に対してどのような言動をしたのか/どのような経験を共にしたのかが胡乱になることがあります。その胡乱さがコメディを生んでいますし、そして話が進むにつれて風太郎がきちんと五つ子と向き合えるようになったのかが、正しく誰かを当て、一緒に得た体験をきちんと共有できたのかに繋がっていったのは、非常に綺麗な流れでした。

 さて、本作が風太郎にとっては五つ子を知っていく過程であれば、対称に五つ子にとっては風太郎をどう『得ていく』のか奮闘したかの過程になります。
 要は五つ子ヒロインの恋のさや当て。
 中盤以降はそれがメインになるのですが、互いに切って切り離せない大事な姉妹で、どんなことがあっても嫌いになりきれないし、冷酷に終始するなんてできっこない、それでも譲れないものがあって無理をしたり、それだから一歩引こうとしてしまったり、そういう機微の描き様も本当に上手かったです。
 その上で彼女らもその過程で恋以外にも己の欲するところを得て行く――というのは本当に学園青春物の王道でありました。

 ところで、個人的に嵌ったと自覚したのは、8巻のニ乃の二度目の告白のくだりになります。
 風太郎にバイクで送ってもらう最中にニ乃は一度「好き」と告げるのですが、風の強さで伝わりませんでした。いったんなしにしてあやふやにするのが凡百のラブコメなのですが、本作は普通ではなく、なんと今度はしっかり聞けやと告白を重ねます。
 その上で恥ずかしながら、ニ乃は私を意識しろと風太郎に対して恋の宣戦布告をします。

「あんたみたいな男でも好きになる女子が地球上に一人ぐらいいるって言ったわよね」
  (8巻 kindle No.26)

 ここからの台詞と、表情が実にふるっていました。

「それが私よ」
「残念だったわね」
  (8巻 kindle No.26)

 これよ、これ!!!
 これぞ、ラブコメなのですよ!!!!


 あとテンポの良さ極まれりはクライマックス前に挿入され数話で処理される実の父親に関するエピソードでした。
 あれは結構引っ張れる胸糞ネタになりそうなのですが、これまで恋心を募らせながら自我を確立してきた五つ子にとっては心を折る手間さえ勿体ないちょっと躓く石ころであったように過ぎていきます。
 その処理の仕方はスマートで好感が持てました。


 それと告白したり、キスしたりと言ったキメのシーンでの一枚絵の破壊力は素晴らしかったですね。
 クライマックスの学園祭での各ヒロインそれぞれに用意された盛り上がりの数々は、誰が最後風太郎に選ばれてもおかしくはないという強度を高めていました。
 本当に、本当に、最後まで誰が選ばれるのか判りませんでしたし、誰が選ばれても不思議ではありませんでした。複数ヒロインのラブコメとして、それ以上の誉め言葉を自分はちょっと用意していません。


 最後に。
 誰エンドが良いかはおそらく読者毎に大きく分かれるでしょう。
 残念なことにハーレムになりそうなふいんきではないので、私が泣く泣く一人を選ぶのであれば――やはり二乃ですかね。
 あの「残念だったわね」という告白は得難いものかと。


 以上。素晴らしいラブコメでした。大好き。

  • Link