あまいゆびさき 雑感

 母に虐げられて育つ2人の女の子が公園で出会う。そこから、運命の恋が始まった――

 
 片親にネグレクトされて育った少女・照乃と、人格無視の過干渉する母親に育てられた少女・真淳、2人の少女がサバイブする半生を書いた小説。
 彼女たちは虐げられて、苛められて、ままならない少女時代を送ります。上手くいかないし、わかりやすい救いは訪れません。無力感と諦観だけが積み重なっていきます。ただ生きていく拠り所は、傷つき始めた5歳同士が偶々出会って別れた数か月の何よりも輝ける想い出でした。
 つまり物心をついた矢先に、ファム・ファタール――運命のひとにもう出会っていたということになります。
 それに気づくまでの苦渋と、認識してからの苦悩と、共有してからの苦難――そこに籠められた少女たちの正負の感情はあまりにも芳醇でした。
 見事な幼馴染小説で、恋愛小説で、百合小説で、人生の物語でした。


 そして物語のオーラス。
 これまで苛まれるだけだったモラトリアムが幕を下ろし、それまでの延長線上で人生が暗く確定する足音が近づくのを前にした時、彼女たちの人生への反抗がようやく実を結んでいきます。
 その克服に心を震わせました。
 独りで/互いの前で、泣いて、傷ついて、――そのままでは決していないという意思と行動。

 ──アキ、おまえプロ目指せよ。
 タダヨシに言われたのは、真淳ちゃんと肌を合わせた数日後、皆で集まって踊った日だった。
 ──何言ってんの、無理に決まってるじゃん。
 汗を拭いて水を飲み下したあと、私は笑いながら答えた。しかし、心臓は跳ねあがった。同じことを、私も考えていたからだ。
   (あまいゆびさき(ハヤカワ文庫JA)(Kindleの位置No.2292-2295))

 心に火が灯る瞬間を目にして、応援しないはずがなく。
 少女たちの成長に、少女時代の終わりに幸いを祈って、満足とともに物語を読み終わりました。


 あと性愛物としてもなかなか良かでした。盛り上がってイキまくる性交するのも素晴らしいのですが、寝ている彼女の指を勝手に舐めるとか、チョコをキスで交換するとかそういうの大好きです。


 以上。素晴らしい作品でした。

  • Link

 あまいゆびさき | 種類,ハヤカワ文庫JA | ハヤカワ・オンライン