華胥の幽夢 雑感

 十二国記の第一短編集(新潮文庫での刊行順だと2番目になりますが)。
 5編が収録されています。

 『風の海 迷宮の岸』後の泰麒の麒麟としての役目の苦悩を書く「冬月」、『風の万里 黎明の空』後の王を弑した月渓の懊悩を書く「乗月」、『月の影 影の海』後の陽子と楽俊の文通を書く「書簡」、柳国の謎の崩壊の序章である「帰山」のいずれもメインストーリーとキャラを深める趣きがあり、面白く読みました。

 ただ白眉だったのは表題にもなっている「華胥」でした。
 混乱へと傾く才州国を舞台に、「なぜ意欲に満ち溢れ規律正しい新王の政によって国が乱れ、麒麟が失道するのか」「なぜ国が乱れて麒麟が失道しても、王は省みて政を変えないのか」の相反し絡み合う謎が、王父の死を契機に誰にも切っ先をつけつけるようになるのを書いていきます。どうして、何を誤ったのか――正しく解決しないと国が亡ぶ、身を切るようなミステリでした。
 そして、十二国記の世界ならではのルールとガジェットを使って、ファンタジーとミステリのロジックとトリックを融合させた美しい答えを見せてくれました。
 この1編を読めただけでも大満足です。


 以上。相変わらずレベルの高い短編を書かれるなと感心しました。

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 OHP-小野不由美「十二国記」新潮社公式サイト

華胥の幽夢 (かしょのゆめ) 十二国記 7 (新潮文庫)
小野 不由美
新潮社 (2013-12-24)
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