丹 雑感

 幾花にいろ氏の成人漫画単行本2冊目。
 1冊目『幾日』で惚れた身としては待望の本でした。

 線が細くて美麗で良い女が、エロい――
 というのに目が眩らんで惚れたのですが、本作においてもヒロインは本当に良い女たちなんです。
 最初の2つの短編は、向かいに住んでいる学生時代からみている少女がガキじゃないと迫ってきたり(『軟着地』)、コンビニで対応してくれた元同級生に優しく導かれて童貞を奪われり(『落花流水』)というシチュなのですが、それぞれ導入で会話している時も顔の良い女なのですが、服を脱いでエッチをし出してからこそ活き活きとしてきます。
 それは部屋に飛び込んできて酒をかっくらう地味な学生とは違う大人になってしまったがさつと異なる意外と余裕がないの姿だったり、予想外に体を許すし予想以上に束縛が強い面倒な姿だったりという、装飾を脱いだ本性を魅せてくるのです。
 では対する男はと言えば――まあそんなに魅力はありません。
 そもそも論として純愛系のエロ漫画の竿役に特別なキャラ立ちは必要ないのかもしれませんが、ヒロインの質感にかなりダメな方向で負けています。
 隠そうとしている純情をさっぱりわかっちゃいないし、自分のことしか考えていません。
 その一つが『落花流水』での一戦交えてからの会話。

「気持ちよければ いいじゃん
 ね?」
「もちろん・・・
 そのために必要なんだよ
 童貞なんだから・・・
 そんなスパッとスマートには割り切れないんだよ・・・!」
 (P48)

 割り切れなさに拘泥するのは男の役割です。流されられない、遊べない、重く考えてしまう、その未熟さ。
 そこから自分は彼女にとって特別ではないけれど――今相対する彼女に選ばれて交わっているのは自分なのだと知るのは、きっと大きなカタルシスで。
 それは男にとってたとえその時理解できなくても、読者にとって実感んどあけでも、幸いなことです。

 ただ問題なのは中編の『秘密』。
 あとがきにて「毎回違う女のコとエッチ」するシリーズを目指して描かれた作品とのことですが、上記で上げた要素が、長くなった割に――あるいは稀有な素質でだからこそ、煮詰まっていました。
 つまり、魅力溢れるヒロインと、さっぱり魅力がない男が、いずれも度を越していました。
 『秘密』のメインヒロインは付き合って1年経っても体を許さない圭という女性。心と体に瑕があって、色々と考え過ぎていて面倒くさい彼女は、読んでいき知れば知るほど嵌っていきます。
 そして付き合っている男はその魅力に気づいているのかいないのか、心と体に対してヤリたい――という欲求を通して相対していきます。そのヤリたいからこそ受け入れる/あるいは待ちに待った身体だからこそと、体に触れるまでは間違った答えを返しませんし、圭が喜ぶ答えを近似で導き出してしまいます。ただそれは初めの想いがヤリたいからだからであって――ヤった後に人と人との付き合いに対して正しい答えをし通すことはついぞ出来ませんでした。
 ここで、最後に間違わなければ良くやったと裏返ってほめたたえるのですが、最後の最後でしくったからこそ印象最悪になっていました。
 ただ身体の相性や人同士の相性としてはそんなものなのかもしれませんが、この流れでそういう着地をするかーと苦い読後感でした。

 救いとしては、圭に対して、同性の友人で貞操観念が薄い(圭と付き合っている男と寝たり)けど情が深いやつがいることでしょうか。
 ここのあたりは深くは描写されませんが、清涼剤になっていました。そのあたりの女性同士の関係性を深めたのが一般向けの「あんじゅう」になるのでしょう。


 以上。良い作品でした。お薦め。

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