凍京NECRO 感想

 2199年、地球は氷河期に突入し、ネクロマンサーによって作られたリビングデッドが跋扈する東京は凍京と呼称されていた。リビングデッドを狩る生死者追跡者・臥龍岡早雲はネクロマンサーにより拉致された少女を救出する。その記憶を失った彼女を起点として、過去の因縁と、凍京を揺るがす事件とに巻き込まれていく――


 という感じの冒頭。
 雪に閉ざされ高圧水蒸気が流れるホットパイプが張り巡らされ未来都市、既存のWWWが汚染され個々の小型情報端末の情報通信を基盤としたメッシュネットワーク、死体からリビングデッドを作るネクロマンシー、2丁拳銃と外部電脳を駆使した近接銃術、――まさしくド直球のサイバーパンクアクションADVでした。


 文章/音楽/絵/映像を駆使した総合映像作品として今までに増して力が入って作られており、特に3Dアニメはかなりリッチでした。
 銃や刀の造形、道路の外灯の流れとか、ヘリや戦車の挙動とかは言うに及ばず、戦闘の殺陣でも潤沢に使用されます。例えば「『凍京NECRO<トウキョウ・ネクロ>』戦闘シーン【蜜魅 VS ミルグラム】 」みたいに。
 アクションのあるADVにおける戦闘シーンというのは華であり、クリエイタの個性によった迫真的な文章だったり華麗なエフェクトだったりでこれでもかというぐらいに彩られてきました。本作では、3D映像との融合というニトロプラスがこれまで求道してきた路線が一つの境地に達していたと思います。あとは殺陣の発想が上手い方がどんどんと関わっていいけば、ADVでしか出来ないアクション・エンターテイメントを生み出し続けるのではないでしょうか。


 閑話休題
 豊潤な素材から生み出された物語としてはと言えば、そちらもかなり良く出来ていました。


 サイバーパンク――人間の拡張と、それが当たり前になったいまここへの反抗。
 この作品では、生と死の端境が曖昧になったこの時に、「生きる」ことはどういうことか――が繰り返し語られ謳われます。
 本作ではネクロマンシーにより死後の生の延長されても、脳の電気信号の活動性は次第に低下し、感情は消失していきます。理想も、絶望も、希望も、恐怖も、愛も、拒絶も、生きているからこそできること。 

【イリア】「あのね、早雲」
【イリア】「私はね、早雲を見てる」
【イリア】「何の意味もない電気信号のやりとりでできたパターン」
【イリア】「でも不思議なの」
【イリア】「最近、早雲の顔が、とっても、とっても魅力に見えるんだ」
【イリア】「これって……もしかしたら、とっても素敵なことかな?」
 イリアの向こうに夜景が広がっている。
 ぼくの脳でシグナルがスパークする。
 とても神秘的な光と光の繋がり。
 その発火パターンを、人は何と呼んでいる?
 脳が、その答えを躊躇する。

 大事な人を選ぶとか、恋するとか――そういった変化は生きているから産まれていきます。
 じゃあ死んでしまえばおしまいなのですが、本作はそれを許しません。死んでしまっても体だけが動かされていきます。そして動いているだけで摩耗していくそれまでの感情を大事に、大事にとっておこうとしても無理なもので、こぼれ落ちていきますし、感情のないガワだけ同じのリビングデッドは生者へ忌避を感じさせ、生きていた時に成したことを汚していきます。
 ここにおいて、個人それぞれと氷に閉ざされて快楽に逃げる未来の見えない人類の先行きという大きな世界とがシンクロします。これまで蓄えたものを消費しながら人類は死んでいっている途中なのではないだろうか、と。
 本作の敵は個人においても人類規模においても、その死を克服せよ、そして自らに意味のある死をもたらせと迫ってきます。純然たるテロリズムの行動はアクションを起こす側が有利なのですが、それにどう立ち向かっていくのか、あるいは立ち向かえるのか――がそれぞれのルートでした。


 ルート。
 本編の選択は「上に行くか、下に行くか」×「イリアを助けるか、敵に立ち向かうか」で、4ルートに分岐します。
 その中で、主人公格の誰かが必ず死にます。それを避けることはできません。死んだ側が延長戦で摩耗しながらどう死んでいくのか、生きた側が喪失感を抱いてどう生きていくのか、そしてひいては人類がどうなるのか、ルート毎に大きく変わっています。明らかになる情報も全く異なっており、全ルートをプレイすることでその時は語られなかった登場人物の行動原理を判り、作品への理解が深まっていく構造でした。
 分岐には特にロックがかかっていません。私は結果として、「イリア→蜜魅→コン・スー→霧里」という順でプレイしましたが、余韻を阻害されることはありませんでした(なお私の順番だとエチカの出生の謎が最後まで隠されることになり、本気でびっくりしました)。普通に行くと、「イリア→霧里→蜜魅→コン・スー」が並び的には意図した順番でしょうかね。
 個人的に一番好きなのはコン・スールート。最後の時尭に泣きました。


 最後に。本作は日常で性的な言動や、食事がちょくちょく挟まれるのですが、この性的なシーンと食事シーンは生と死において重要な意味を帯びています。
 生者はリビングデッドに発情しないし、リビングデッドは食事を美味しいと思わなくなります。
 だから興奮しているうちは生きているし、食べて味があれば生きている。出来なくなっていたら――そういうことです。
 主人公格の誰かが必ず死ぬと書きましたが、そうしたお楽しみのところが、その視点から語られる楽しめなくなる人間への乖離は文章でしか表現できない機微もあり、18禁ADVとして正しかったと思います。


 あと女性同性愛とかありますが、そのキャラクタらしくて良かったのではないかという程度。
 エロシーンが使えるかと言えば、あんまり使えないんじゃないですかね。


 以上。丁寧に作られた良い作品でした。

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