言動に皮肉に満ちた車椅子の少女・八重垣えりかは初めてのルームメイトとして転入生を迎える。
彼女の名は考崎千鳥、歌とバレエの巧みな取っ付きにくい少女だった。
一癖ある少女たちは同居生活を通して、自らも他者も傷つけていた棘を溶かしていく――
女学院・聖アングレカム学院を舞台とした百合学園ミステリADVの第2弾。
【立花】「八重垣さんが犯人を捜すというの?」
問う花菱へ、一つ頷き、
【えりか】「今回はわたしが白羽役だ」
前作の探偵役の白羽蘇芳は裏方へと周り、本作の主な視点人物かつ謎解き役は八重垣えりかに移ります。
彼女は蘇芳を書痴仲間と呼ぶ乱読派で、物事を斜めに見て真面目さを茶化す気質を持ちます。蘇芳ほど真摯な洞察力は持たないのですが、博覧かつ多面的に物事を見るえりかもまた探偵役に相応しいキャラをしていました。
本作ではミステリの花形の一つたる暗号が出てきたりしますが、全体的には謎はパワーダウンしていました。前のFLOWERS春篇でいきなりすっ飛ばしてきた「まだ出ていない登場人物の名前を推理」させるほどのインパクトのあるものはありません。
ただし本作においては謎そのものよりも事件の解決方法に重きが置かれています。事件の真相を究明するよりも、事件の影響の調節するという色合いが強いです。
如何にしてその事件を上手く言いくるめる巷説を作りだすのか――を、えりかは自らの役割として担っていきます。
その共同体を正しい方向に導こうとする意志と行動は、1人気ままに本を読みふける生活を善しとしていたそれまでを決定的に裏切るもので。
千鳥という彼女は彼女で棘で武装してコミュニケーションする存在に出会い、生活を乱され、事件の真相を解いていくたびに知らず知らずのうちに変わらざるを得なくなっていきます。
それはひょっとしたらそもそもの彼女の深くそこに眠っていた根が露わになろうとしているだけなのかもしれませんが、そういったえりかの言動の変化と心境の変化を目の当たりにしながら、千鳥もまた大きく変わっていきます。
わたしと同じように誰にも触れられないように壁を築いていた筈なのに、少女のような無防備な笑みを見せられ――
【えりか】「……唄が聴きたい」
そう――自分から境界線を超えてしまった。
【千鳥】「――私はえりかの振付で踊ってみたいわ」
求め、求められる関係。
いやあ、実に百合でした。
上記の通り、心境の変化と謎解きがマッチしているので、ミステリとしての融合も出来ていたんじゃないかなと思います。
あと百合として良かったところを上げれば、バレエ練習室にこもる汗の描写が匂ってきそうで素晴らしかったです。
難点としては前作でもそうでしたが、視点人物の女性との肉体的な接触への感覚が若干慣れてなさすぎる男くさい気がします。童貞臭いと言ってのけたいぐらい。
実際のところ女性と女性の色欲とかそのあたりがどういう感覚なのかは判りませんが、本当にこうなのと違和感があったりなかったり。
そこまで疑問としては強くはないので気にしないでいられるレベルでしたが。
最後に。
エンディングはBADと毛並みの違う先生エンドを除けば、4種類。
クライマックスにおける作中劇のバレエで頂点に達する感情の行き先でどう転ぶか決定されます。
個人的にはハッピーエンドスキーなのですが、別離エンドがかなり痺れました。
badよりのbitterで百合bitterとしてはよくあると言えばよくあるのですが料理としては悪くなかったのではないかと評価したいところ。
ハッピーエンドを迎え、彼女らが奇跡をどう捉えるのかわかったのちに、別離エンドに行くのを強くお薦めします。
静寂の舞台、メインをはる踊り子の胸中は荒れ狂った後の凪。
残るのは、誰も知らない誇り高い決意。
この学園を離れ、プロとして生きる道を選んだのだから――
この前後の幸福な終わりとの対比は見事でした。
以上。なかなか良い出来でした。残された謎でシリーズを通した謎の輪郭も浮かび上がってきましたし、続きが楽しみです。
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<シリーズ感想>
FLOWERS 春編 雑感 - ここにいないのは