medium 霊媒探偵城塚翡翠 雑感

 霊視ができ死者の魂を下せる霊媒・城塚翡翠と推理作家・香月史郎とが殺人事件を解決していくという連作推理短編集。

 前評判「ミステリランキング5冠、第20回本格ミステリ大賞このミステリーがすごい! 1位」に身構えすぎたきらいがありました。どんだけ背筋ワナワナの超特大傑作だろう――と当たって行ってしまったのですが、そこは正直肩透かしだったかなと。
 しかし本格ミステリとして優秀であり、かなり楽しんで読めたのは事実です。

 翡翠が霊視などによって筋道をショートカットした犯人や真相を指摘し、香月が逆算して警察が納得いくような論理を推理していくというのが基本的な構成。

 霊視では、一瞬だったのだ。
 だが、それを証明するための論理を構築することの、なんと煩わしいことか──。
  (medium 霊媒探偵城塚翡翠(講談社文庫)(p.170).)

 論理をあと付けで推理するという作品は諸々あるのですが、怪奇現象由来で見えたあやふやな証拠にならない映像を基に物証を探して逮捕・検挙できるような現実な物にしようと腐心する出来はミステリとして悪くありませんでした。
 加えて、浮世離れした美人の翡翠がなんでこんな死んだ人間にまつわる力があるのか悩みながら、理解者である香月によって事件を解決することで死者の代弁者として力になれるようになっていき、合わせて友人が増えていって無邪気に喜ぶ姿が見えるようになり、そんな彼女に香月が惹かれていく――というカジュアルな要素も楽しく読めました。

 さて、翡翠のように犯人や真相をいきなり指摘する探偵は様々いるのですが、その方法をどう説明するか――が一つの醍醐味だと個人的に考えています。
 つまりはたぐいまれな推理力が瞬時の推理を可能にしたのか、本当に超自然の力があるのか、あるいは自分で起こしているのか。
 そこを本作は間違えることがありませんでした。最後の短編に至って、そういえばマジックネタが持ち味だったなと思い出しましたし、全てを説明された時に膝をうった次第です。幾重にも張り巡らされていた隠された思惑と、視点人物による何重もの騙り――キャラ物としてはピュアに読む派なので――にはすっかり騙されていたので、爽快な気分になりましたね。最後に残された2つの騙り――本当はどう思っていたのか、本当はどちらなのか――もまたミステリが閉じる含みとして良い心残りになりました。


 以上。ミステリの秀作でした。

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