選手が全長6mのストライクシェルをまとい、2km〜5km四方に区切られた宇宙空間で15VS15の戦闘を行う競技・ストライクフォール。
宇宙一人気があるそのスポーツに亡くなった弟の代わりに密かに出た雄星は偶然技術革命を引き寄せてしまう。
慣性制御――慣性運動に直接干渉し望む方向へと機体を動かすオーバーテクノロジーのチルウエポン。
慣性制御によってストライクフォールは新時代を迎えていく。
激動の中、雄星は二軍から這い上がり、再度一軍デビューしようとしていた――
という感じの、架空のスポーツを扱ったライトノベルSFの3巻目。
基本路線はスポ根、あるスポーツジャンルで尖った性能の持ち主が艱難辛苦して成長していくというあれです。
そう、本作は主人公・雄星は歪な競技者として書かれます。基本的な技能はプロの一線級からはほど遠い。しかしエゴとプライドは人並み以上に兼ね備え、我を張るための弛まぬ努力を怠りません。それでも届かず、お荷物以上ではないはずでした。
たった一つの異能、チルウエポン耐性A。チルウエポン使用回数の制限が人並み外れているということであり、ひいては彼は慣性制御への忍容だけは全人類中でもトップクラス。
故に彼は一軍でプレイしようとするのであれば、最低条件として、今まで誰もいなかった、慣性制御を何度も繰り返して戦場を駆け巡るパワー型に目覚めなければならない――というのが本巻のメインとなっています。
──ユウセイ、おまえにゃ普通は無理だ。つぶれるか、スターになるか、二つに一つっきゃねえ
(ストライクフォール3(ガガガ文庫)(Kindleの位置No.1325-1326))
それを見抜くのはチームの監督やコーチ、エースであり、雄星はただ腋目をふらず彼であることを磨くしかない、というのが燃える所でした。
それにしても、ただ一つの技術の出現によって、平均移動速度が秒速10mから秒速20mに跳ねあがり、これまでと同じ様にプレイしようとすれば時代に置いて行かれる過渡期。
そもそもの競技の基盤がしっかりと設定されているからこそ、これまでの常識が覆され、新しい概念が数多く生まれ、古いものと勝てない筋が潰えていく激動が書かれていくのに興奮を覚えました。
また雄星が本領を発揮しだしてからの格別の強さも突飛になりすぎず、しかし読んでいて新しすぎて魂消るのが本当に伝わってきました。
作者の筆致が流石と言うところでしょう。
あとこれまたスポーツ物によくある、またロボット物によくある、必殺技の書き方が上手かったです。
主人公に許された、オーバーテクノロジー中のオーバーテクノロジー、チルウエポンを生み出すという際物中際物の《王の御手》。
その発動シーンが実に良い。
〈シルバーハンズからの申請を受理して、これより《王の御手》の開封を行います〉
ストライクフォールに使われるあまたのチル・ウエポンのうち、唯一、発動に競技連盟の許可を必要とする武装の、最初の許可が発せられた。
〈使用承認──封印解除──《王の御手》解放、発動準備完了。節度のある使用をお願いします〉
(ストライクフォール3(ガガガ文庫)(Kindleの位置No.4807-4811))
いやー、こういう許可制って何故か燃えますよね。
以上。続きが楽しみです。
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