アンチ・マジカル 〜魔法少女禁止法〜 感想

 ウィッチ・イズ・デッド、というやつだ。
  (P3)

 魔法少女の役割は終わり、規制されるようになった時代。ある者は一般生活に戻り、ある者は人間としての能力を活かして活躍し、ある者は隔離されていた。しかし時代の趨勢に逆らい、悪を裁く活動を続ける最後の魔法少女がいた。彼女の名前はおしゃれ天使スウィ〜ト☆ベリー(24歳)、第3世代の生き残りであった。ベリーは元魔法少女達を狙う事件を追うことになるが、彼女のできたてホヤホヤの助手/“魔法少女の弟子”は少年だった――


 という感じの内容。
 後書きを読むまでもなく、魔法少女ウォッチメンでした。政府の魔法少女エージェントは高層ビルの窓を割って墜落死させられ、世界のバランスを取る全知全能がいるなどのド直球のオマージュです。
 『ウォッチメン』を知らなくても楽しむには問題ありませんが(ただし知らないと世界観に純粋に感心してしまう危険性もありますが)、知っているとにやにや出来るでしょう。事前に映画版をさらっと観ておくのをお薦めします。
 単にオマージュしただけなら、『ウォッチメン』的構造に魔法少女を流し込んで世界観を整理した変わったダークモダンファンタジーもどきとなるのみだったでしょう。しかし、決してそうではありませんでした。何せ、流し込んだのは『夢幻回廊』のシナリオライタにして、『R.U.R.U.R』のシナリオライタです。良くも悪くも、構成・内容が整った居心地の良いダークファンタジーにおさまる筈がありません。
 本書の半分を超えたあたりで、ギアチェンジされました。
 魔法の暴力性、ゲテモノ魔法少女、少年による女装魔法少女、正義への歪んだ憧れetc、それまで小出しにしてきた要素を更にもう一段階醜い――より一層無駄にリアルの方向に推し進め、作品をとんでもないカオスへと叩き込みました。
 どう混沌としたかは読んで確認して欲しいのですが、本書最大の阿鼻叫喚であった『ぽかっ』という擬音から始まる惨劇の“描写”の酷さと言ったらもう。ライトノベルでこれほどまでに読みたくないのに読まさせられる暴力性があったのは初めてです。そこでは激痛と激痛を感じる精神を限界まで書いてしまった一例が形となっていました。
 そして――エクスキューズが嫌らしいほど付随する正義の、具現。醜悪ここに極まりました。笑うしかないでしょう。


 こんな感じに、全体を通して暴力的な筆致で、汚らしいものをあまりにも巧みに綺麗に表されていまました。しかも底と果てにあるのは“愛”っぽいのが溜息をつきたくなる所です。
 

 以上。読みがいはあるので、心して読むのをお薦めします。

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