彼女たちの流儀 感想

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 共通部分について。
 5年ぶりに実家に帰ったら2人の姉が吸血鬼になっていて、片方の姉から女装して劇に出てくれと頼まれという出だし。少女と吸血鬼の組み合わせは相性抜群のため、色んな媒体でちょくちょく見ます。ただ氾濫しまくったせいで、要求する側のハードルが高くなっていて、現在の作品において吸血鬼の設定と処理に安易な方法が用いられていると愚にもつかないと判断するしかありません。
 本作での吸血鬼の誕生は先天的には発症で、後天的には血の供給によります。弱点は特にない上に不老不死になり、身体能力がのきなみ向上するという都合の良いドーピングとなっています。しかし吸血鬼の種族は人類との生存競争に敗北し、現状では国家レベルで管理される実験動物の扱いを受けています。
 この作品で最も大きな吸血鬼であることの意味は不老不死となっています。不老不死、つまりは現在の固定を出てくる少女たちがどう思うのかをポイントと取りました。
 ヒロイン別にまとめると以下のようになります。ネタバレ含むので反転してどうぞ。


 涼月…汚れて変容することを嫌い今のままでの停止を望みます。そして彼女は渇望していた在り得ない答え=吸血鬼化に出会うのですが、あっけなく拒否されます。彼女が生に絶望しないためにも、胡太郎がしなくてはならないことは何か、というお話。そんな彼女が胡太郎と結ばれ、女の子が生まれた時にどうなるか想像すると肌寒いものがあります。
 せせり…彼女が望んだことは全て現実化するため(彼女はフラクタルだから――というのは完璧に私の推測です)、外的変容は不必要でした。
 朱音…吸血鬼化の結果日常生活を送れるようになったため、吸血鬼である自分を天真爛漫に肯定しきっています。しかし脚本を書き、胡太郎と再会し、恋をすることで吸血鬼であることの意味と他者との関係性の再構築に本当に至ります。
 鳥羽莉…吸血鬼であるため成長せず、血を吸わなくてはならない自分を嫌っています。解決する方法は2つ、というお話。意外と真っ当な吸血鬼物となっています。
 千佐都…胡太郎とともに生きることだけを望み、人としての努力を重ねます。従って既に敗北している吸血鬼は勝てるはずもなく。
 火乃香…吸血鬼を見張り、滅するだけの存在であろうします。そのためには深い心情はご法度なのですが、男の子のひたむきな想いと乙女の恋心には勝てないわなという話になります。まあ処理の仕方は普通なのですが、子供が女の子だった場合、今までの殺戮が返ってくるかもしれないと考えると無常さがあるかもしれません。

  どのシナリオも先や続き(子供)について考えると暗い影に覆われますし、朱音と鳥羽莉を選ぶ=血を外に出さないのが物語の正しい答えなのかも。
 ……劇にからめた登場人物の心情・フラクタル関連についてすぽーんと考察が抜けていますが、そこらへんは面倒なのでパス。というかこれで精一杯です。


 絵は立ち絵はパーフェクトで、一枚絵も時折顎の線が気になる以外は文句なしと見事な出来映えでした。女顔ショタ系の主人公が気の強いロリに攻められるのが好きなら、エロも申し分ありません。
 音楽は単体では悪くないものの作品とは合っていませんでした。もう少し重い感じの方が良かったですね。
 システムは普通。


 以上。味のある良作でした。

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 OHP-130cm
 赤の女王仮説 - Wikipedia