スクリューマン&フェアリーロリポップス 感想

 ネジの悲鳴という幻聴に悩まされる少年は偶々降りたバス停で美少女に出会った。
 「ヒーホウ♪」
 そんな挨拶の後、「貴方に決めた」と唐突にキスされた。実は彼女は妖精郷の王女であり、その口づけを始まりに、少年は妖精たちの大騒ぎに巻き込まれていく――


 単発ラノベでは久々のスマッシュヒットでした。トラウマを持つ少年が不思議な少女に出会い、異能に目覚めて騒動に巻き込まれるというテンプレートを良い具合に味付けしていました。
 まず少年の成長物として。主人公は高校1年生の少年であり、機械に近づくと"ギッギッ、ギッギッ"という幻聴を耳にする苦悩を短い段落でしっかりと伝えてきます。そして物語が進むにつれて、精神の安定さは元将棋指しの母から教えられたことと、『ネジの悲鳴』の原因の父の話が語られ、肉付けされていきます。その後々の追加される情報は今まで少年に寄り添った視点から語られた少年の像を違和感なく強化していくものであり、主人公を知っていく情報の出し方としては良く練られていました。そのため彼に肩入れしやすくなっていて、巻き込まれていくのを読んで臨場感が生じる誘因ともなっていました。

 カチリ、と――
 どこか遠い場所で、今まで悲鳴ばかりあげていたネジが、初めて綺麗に締まる音を聞いた。
  (P17)

 そう、瑕のある少年が輝く契機に出会い躍動していく姿の眩しさは、これぞライトノベルの醍醐味の一つだと膝を打ちましたね。


 輝く契機――ボーイ・ミーツ・ガール。いやはや正し過ぎる様式美。
 では、少女の造形はどうなのかと言えば、これまた最高級でした。フェアリーロリポップスの名の下、出てくる度に魅力を振りまく魔性のロリでした。容姿はふわふわの髪とか、くりくりした瞳とか、ぺったんこの胸とか、可愛さを良い感じに形容されています。魅力的な容姿のロリっ娘はそれだけでも正義なのですが、言動が神がかって切れていました。動作――初めのキスの唐突さと裏腹の震える怯えとか、単に笑うだけで如実に伝わってくる喜びだとか、ふとした時に噴き出る恋する乙女の照れだとか。言葉――
これこそが彼女の最大の魅力でしょう。台詞がとんでもない殺傷力を持っていました。

 少女は頤に指を当て、昼間出会った少年の顔を思い浮かべる。たちまち笑みが零れた。
「ぼくを見る目が、とっても可愛い人、かな?」

 ロリポップスに幸いあれ。相手の反応を予測してちくちく確かめてくる小悪魔っぷりの甘やかさにどっぷり浸りたいと願いたくなるほどでした。以降の冷静で一徹な少年の好きだという確信と、小悪魔な王女の好かれているという確信とが生み出すいちゃいちゃっぷりはもう半端ねえとしか言いようがなく。
 しかし、少女の魅力はそれだけにとどまらず。
 翼持つ王女は快活な悪党だった――ときます。平和な世界を揺り動かしていくある種の壮大な迷惑な存在なのですが、そうした悪党こそが平和な世界から離れて成長していく少年に相応しい比翼でした。
 

 少年と少女が揃ってからの冒険を彩るのはとうぜん異能です。イットを使役して特殊能力を発揮するのですが、そこには確固たる条件・階梯があります。ほどほどにきちっとした設定であり、発揮の場面はやりすぎない程度に格好良かったですね。

 ロープか何かあればな、と卓巳は思った。でも、それはないものねだりというものだ。
 ――作りましょうか?
 (中略)
 ――ロープがお要りなら、作りましょうか?
 卓巳のイット、≪矮小鬼工の職人団≫が再び問うてくる。無論、応えは一つだった。
「出番だ! 働け、小人たち!」
  (P113)

 こういうのを序の口に、燃えるレベルアップなど各種取りそろえてあり、物足りないことはありません。


 このように魅力的なボーイミーツガールと異能との冒険談を紡ぐ文章は極めてリーダビリティが高かったです。新人とは思えず、残念な所はほとんどありませんでした。特に要所要所での決め台詞は一読の価値ありかと。
 

 そんなこんなでべた褒めしてきましたが、唯一欠点を言えば、どうしようもなく地味なことですかねー。


 以上。ラノベのボーイミーツガール好きな方にはお薦めです。

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