弱キャラ友崎くん LV1~6 雑感

 冴えない男子高校生・友崎文也は格闘ゲーム『アタックファミリ―ズ』のオンラインランク1位のnanashiだった。彼はランク2位のNONAMEとオフ会をすることになったが、現場に来たのは同級生の美少女・日南葵であった。
 そのオフ会をきっかけに、人生はクソゲーだという生き方だった友崎は、人生が神ゲーだという日南の持論に乗り、彼女の指令によってリア充になるために自らの弱キャラを作り直していくことになる――


 という感じに始まる、現代高校生活の日常を舞台にしたライトノベルシリーズ。
 基本的な流れは、人生をゲームとして上手く立ち回ってスクールカーストの頂点に至った美少女に、人生のルールとテクニックを学んで実践していくというもの。
 ルール――スクールカースト、空気、コミュニティ。
 テクニック――表情、姿勢、身振り手振り、話し方、ファッション。
 彼が知ろうとしなかった同年代の生きるスタイルがその道の達人によってきちんと言語化され、彼なりに身につくように出題されます。
 一貫した論理によって卓越したゲーマーでありつつ人生の良質化を効率よくしてきた彼女だからこそできる指令であり、友崎はきょどったり面白がったり、失敗したり上手く行ったりしながら、彼女のオーダーを着実にこなしていきます。
 そうした地道な努力によって、自らはゲーム以外なにもなく、他人からは居てもいなくてもいい存在だったのが確かに変わっていくのです。
 その過程、その頑張り、その小さな達成の連続がほんとうに読んでいて楽しかった。

「変わりたいと思う気持ちは、自殺だよね」
  (西尾維新.零崎人識の人間関係 戯言遣いとの関係(講談社文庫)(Kindleの位置No.458))


 変わりたい――今と異なる自分を作りたいという願い。
 未だ熟していない青い時代であるのであれば、そうありたい自分を目指すのは決して間違ったことではなく。
 孤高のゲーマーもそれはそれで楽しいのかもしれないけれども、なれたらもっと楽しいかもしれない自分がそこにあるかもしれないのならばどんだけ嫌でも努力する価値はあるのだろう、と。
 そういう御託を信じたくなる、物語の運び具合でした。


 どうしても似た系統に入ってしまう『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』ほど登場人物の心理の屈託の表現が巧みなわけではありません。
 むしろ良い意味でそういうものだと書き割りに振っている部分もあります。例えばリア充なりの屈託だとか、キャラ作りを雰囲気として受け入れる呆気なさとか。
 そこはまあルールに則ったアクションが適応されたら例外が極力ないことで、方向性の純度を高めていたと思います。
 実のところそういう時に訪れるブレにこそ、このシリーズの重大なポイントが記されるのですが、そこはそれ。あまり書くとネタバレなのでここまでにしておきます。


 あと大事なことですが、ヒロインは各々造形が良く出来ていました。特に文科系の菊池さん関連は秀逸。毎回毎回関わるだけで空気が天国になり、地に足がつかない雰囲気に染まっていく文章はなんなんだこれはという思いにふけること間違いなしの必読の一節かと。
 絵も素晴らしかったです。これはという場面で欲しいイラストがばんっと表示されますし、その美少女の活き活きとした表情はキャラクタの精度を非常に強くしていました。


 以上。今後も追い続けるシリーズになりました。初見の方は取りあえず5巻までは読んでから判断して欲しいところです。

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