舞台は2016年、超少子高齢化の波から四肢を機械化され高度な武装を持つ特甲児童が治安維持に加わるようになっている近未来。
10年の銃死者数の月間平均がたったの648人の平和な都市ミリオポリス――元ウィーンも、凶悪犯罪やテロが増加をたどるようになった。
これは、3人の羽を持つ特甲児童<妖精>たちと、3人の羽を持たない特甲児童<犬>たちが、ミリオポリスを守ろうと奮闘する物語――
冲方丁の最後のライトノベルシリーズ。
2017年7月に完結たる3下が出たので、一気に読んでみました。
今更言うまでもありませんが、ありていに言って、どうしようもないほど傑作でした。
熱量高い作品を読むと心が持っていかれることは多々あるのですが、本シリーズは魂が削がれるレベルにあったかと。
硝煙、爆発、血飛沫、死と別離。――箍が外れた世界を混沌に化そうとする暗い意志により、そこかしこで心を壊れるほどの慟哭が響き渡ります。
しかし、挫折し、膝を折ったままでいることは自他ともに許さず。砕けた魂は何度もよみがえって輝きをみせ、悲劇を克服していきます。それぞれ屈折を持つ6人の特甲少女たちの茨の棘に満ちた道ゆきの弛まぬ足取りに祝福あれ。
主眼たる子供たちに限らず、大人を含め、決して悪には屈しない――という強い意志が少しずつ良き方へと推進していく様は心震えました。
おぞましく暗い意志があまりにも強大で真に迫っているからこそ、正しくあることの尊さが鮮やかでした。
ひっくるめ、あまりにも真っ当で、あまりにも眩いストーリーが展開されます。ここまでの衒いのなく、力強いお話はめったにあるものではないでしょう。
勿論、エンターテイメントとしても当然優れています。
テスタメントシュピーゲルに至り、カタナとヘイジョーシンでワザモノを目指す特甲少女とか超最高。
あるいは『37 29 23 17 13 11 7』という繰り返される素数の組み合わせが意味するところ。この数字の意味が判明し、またそれぞれの要素に分かれていき、組み合わせが変化するくだりは暗号が解かれる醍醐味というかエッセンスが濃縮されており、脳汁でまくり、無茶苦茶興奮しました。
以上。改めて言いますが傑作。オールタイムベスト級です。
未読でこれから読むなら羨ましい限り。これから豊饒な時間が待っています。
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