最後にして最初のアイドル 雑感

 それぞれ独立したSF短編小説集。
 しかし作品の癖は共通して激烈に出ています。いずれも時間と空間、そして人間性の最先端をそうとしか語れない言葉によって、見てきたように大ぼらをくそ真面目に吹いています。人間性を表すのにアイドルやソシャゲや声優が選ばれたのか、アイドルやソシャゲや声優を突き詰めていったら人間性の最先端にいきついたのかはわからないですが、よくぞそこまで書いたわーと呆れるしかない作品群となっていました。

  • 最後にして最初のアイドル

 アイドルを目指した少女が夢破れて死に向かったとき、彼女に惚れ込んだ少女は彼女の脳髄を引っこ抜いた。蘇生出来うる未来を待っていたが、訪れたのは太陽フレアによって激変した地球環境だった。しかしそこから未曽有のアイドル活動が始まる――

 
 元はラブライブのにこまき。……何故?と思う訳ですが、書いてしまったのだからしょうがないのでしょう。
 壊れていく地球と生態系に適合しながらエスカレーションするアイドル活動にドン引きながらも惹き込まれていきます。

 ファンを探さなければ。会いにいけるアイドルから、会いにいくアイドル、そして探しにいくアイドルへの成長。この時代、単にファンのところへと会いにいくだけではアイドルは成り立たない、探しにいかなければならない。〈第四世代アイドル〉のままでは長距離移動は不向きだった。〈アイドル〉は時代に合わせ自己革新する。こうして、〈第五世代アイドル〉が生まれた。
  (最後にして最初のアイドル(ハヤカワ文庫JA)(Kindleの位置No.729-730))

 グロいあれやこれやとエゴの肥大を綺麗にアイカツの世代交代にまとめていく手腕には、はは、こやつめと好感度しか上がらないですし、帽子とかの小ネタもにやにやと出来た訳ですよ。
 そしていつの間にやら、ファンと意識についてとある結論に辿り着きます。どうしてこうなったと狐につままれますが、なるほど確かにそうなるかと脳髄に真相が叩きこまれる異様な読後感はちょっと味わったことがないものでした。
 後ろの2作を読むと、これはまだ小手調べだったと感じますが、やばいものを生み出す手腕は十分に味わえました。

  • エヴォリューションがーるず

 ソシャゲ<エヴォリューションがーるず>とガチャにはまりすぎて圧死した洋子は嵌っていたソシャゲの世界に転生した。彼女はガチャを回しながら進化していくことになる――

 N:細胞核
 洋子は何者かになった。細胞核を持ったものに。
   (最後にして最初のアイドル(ハヤカワ文庫JA)(Kindleの位置No.1254-1255))

 ポイントをためて、回して、原始の器官を揃え、生物として進化していく過程が滅法楽しい。こう組み合わせればこの感覚器になる、こう融合させればこの外見になるという進化の手さぐりと、進化していくことで環境への働き掛けも増えていき、生きていく複雑さが増していく達成感が堪りませんでした。
 ただそれだけならソシャゲとガチャを上手く物語に落とし込んだねと終わるのですが、そこから先に踏み込んでしまいます。
 ――何故ソシャゲに嵌るのか。
 ――あるいは人間がソシャゲに嵌ると宇宙になにが起きるのか。
 びっくりするわけですよ、そうくるのか――、と。
 いやもうそろそろどんな大ぼらを吹くのか楽しみではあったのですが、物凄い大ぼらがあったものです。
 にも関わらず。
 にも関わらず、ラストが百合小説として物の見事に綺麗に落とされて、腰を抜かしました。

  • 暗黒声優

 『声優』――発生声でエーテルを操作する能力者は人類が宇宙を移動するのに必須の生体ユニットと化していた。アカネは最強の『声優』を目指すため、他人の発声管を奪っていたが、最後の獲物と目した『暗黒声優』を追って星々をそして銀河を股にかけた長い旅に出ることになる――


 素晴らしく見事なワイドスクリーン・バロックかと。
 地球の重力が消失した描写、木星の描写、太陽系を飛び出す際の描写、そして宇宙の中心。これぞSFと言う、理論に基づいたスペクタクルを文章に落とし込んでいました。
 その筆致は読者を作品を前にして、精神を想像の限界の果てにいざなうものでした。
 良く出来たバクスター級の出来栄えと評したいところ。



 以上。端倪すべからざる才能の持ち主による作品でした。新作毎にどんなトンでもないものを見せてくれるのか楽しみになりました。

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