新選組黎明期の初代筆頭局長・芹沢鴨暗殺事件を扱った時代小説。
芹沢鴨の命運がどのように尽きていったのかを人の心の動き/動機を中心に書いていました。
芹沢鴨は酒に酔うと芸妓の切り捨てや商家の焼き討ちといった狼藉を繰り返したが――本当に乱心であったのか、何を考えていたのか。
新選組の局員による暗殺だが、筆頭局長を切り捨てるのをどの時点でどのように計画されたか。
芹沢鴨に手籠めにされたお梅はどのような経緯で何を考えて死に際に一緒にいたのだろうか。
手引きをしたとされる島原の芸妓はどうして芹沢鴨暗殺に関わるようになったのか――芹沢鴨に切り捨てられた芸妓の恨みか、男に翻弄されるだけの女だったのか、或いは土方歳三への思慕か。
一つの出来事、一つの振る舞いに、多重視点からの解釈が語られ、己が生きるように生きた者たちの衝突の模様が深まっていきました。新しいものと古いもの、侍と百姓、男と女、進むものと立ち止まるもの、譲れるものと譲れないもの。
それで次第にそれぞれの立ち位置において芹沢鴨を殺すことの、芹沢鴨が死ぬことの意味付けがされていきます。
そうした手続きに伴い、密やかに殺意が高まっていく緊迫感と、実際に決行するまでの緊張感が醸し出され、破――暗殺事件まで一気呵成に読まされる迫力ありました。
以上。題材にしては冗長で締まりがないのが難点でしたが、楽しんで読めました。
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