たまこラブストーリー 感想

 言葉を話す鳥は関わらず、遠い南の島なんかもっての外。スーパーナチュラルは視野の外へとうっちゃり、向かい合わせの2軒の餅屋にそれぞれ生まれた少年と少女との恋物語、そしてその周囲の少女たちの葛藤と成長の物語をひたすら突っ走ります。純度120%、ど直球の青春物でした。
 掴みは最高、窓を開けて向かいの幼馴染の少女に糸電話を投げる一瞬を冒頭として切り取ります。この糸電話と言うのはありきたりですが魅力的な小道具であり、夜天に張り巡らされる細い糸に乗った密やかなそして何気ない会話に魅了されます。レトロな二人の関係性の最適のメタファとなりながら、最後まで物語に寄り添います。そう、お話の始まりで大事な役割を果たしたそれはお話の締めでもまた当然のように働かせます。
 それからまあ、気心の知れた幼馴染に告白して距離感が解らなくなったり、ぎくしゃくしてすれ違ったり、ぐちゃぐちゃして思い悩み互いにベッドで頭を抱える夜を越したり。あるいは夕暮れの部活とか、部活に行く途中の会話とか、教室の掃除とか、授業とかを通り過ぎたり。恋とか進路とかに悩む、the青春でした。良質なアニメーションに支えられているからこそ、あるカテゴリーでは理想的なノスタルジーと言える青春時代を仮想的な同時代性として味わえるのは映像作品を楽しむ醍醐味と言えましょう。こういう世界に生きたかったと思わされちゃあ、負けを認めて耽るしかありませんでした。
 閑話休題
 自分の冴えない青春を思い返してしまう前に、本作を幼馴染との恋愛物として評価する軸に戻りましょう。個人的に幼馴染との恋愛物で一番好みの点は、恋愛を意識した時点で共有した人生の喜怒哀楽が艶っぽい彩りに重ね塗りされるパラダイムの変換にあります。それが鮮やかであればあるほど胸にキュンと来るわけです。
 本作?
 もう胸キュン、ドキュンと撃ち抜かれました。
 たまこという少女は高校生の現在は餅を偏愛する変態として描かれるのですが、過去に一度だけ嫌いになりそうになった時期があります。それを乗り越えて餅を好きになったのは家族のおかげと思っていたのでした。……先が読める話なので、読んでしまえば、餅を好きにさせてくれたのはお相手の少年という訳で。その記憶が是正され、人生を豊潤にさせたエピソードは更に色を持ち、愛が溢れます。この時のたまこの表情もまた素晴らしかったです。ああ、愛が溢れたんだなあと、その顔を見ただけで解る、そんな腑に落ちようでした。
 そして最後、京都駅のど真ん中で愛を叫ぶ姿を観て、「ああ、これは素晴らしい幼馴染恋愛物だったのだ」、と胸にそっとしまい込みました。


 その他のキャラクタとしてはまず、たまこの妹のあんこが可愛すぎる。最高の小学6年生。普通に素直というのの何と至高なことか。あとキャミソール。
 次いでみどり。彼女もまた語られざる幼馴染で、自分も幼馴染なのだと叫び出したい、阻害された幼馴染として機能していました。ちょっと都合が良過ぎるキャラになっていましたが、それもまた良しでしょう。


 以上。幼馴染恋愛物の概念が煮詰まったものとして、幼馴染好きなら観るべし。新しい発見はないですが、非常に居心地が良い作品です。

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 『たまこラブストーリー』公式サイト