はねバド! 1-10 感想

 バドミントンを取り上げたスポーツ部活漫画。
 まず言っておきますと、部活物は私の大好物です。以前『あさひなぐ』の感想でもざっくりと書きましたが、競技における選手としての成長と、思春期の人間としての成長が同時に描かれ、その同時進行が豊潤な物語となるあたりが主に好きな理由でしょうか。
 本作もその2つを兼ね備えていますが、匙加減としてはバドミントンの競技者としての在り方に分量が強く振られています。1VS1の競技だからこそ、キャラクタの成長がより直接的に勝敗へと関与します。そして矢張り勝負にはメンタルにかかるところが大きいですし、プレイヤらが思春期であるが故によりプリミティヴに関わることになります。
 身体と心の成長がひたむきに勝利のためへと費やされる。スポーツ物としては当たり前のことなのかもしれません。
 ただ本作はその「成長」という点において、かなり異常を示します。
 というのも、作品自体の成長の仕方が異形というしかなかったのです。
 絵と表現の進化というか、変革が劇的過ぎました。



  (1巻、P167)


 1巻からの出だしは時々不穏な空気は流れるものの、愛嬌がある絵できゃいきゃいやるのが漫画の一面を覆っていました。
 しかし3巻あたりから作品が、そして登場人物たちが、牙をむき出しにします。



  (3巻、P165)


 マクロでは作品が、ミクロではキャラクタが遠慮をしなくなりました。


 まずマクロに関して。上に1巻と3巻を引用しましたが、絵とコマ割りが明らかに変容を遂げ、序盤の愛くるしい雰囲気はほぼ一掃されます。さらに巻を重ねるにつれ、どんどん絵は濃くなっていきます。
 スポーツ物に限らず長期連載されていくにつれて絵やコマ割りをひっくるめた表現が変化していくのは当然のことではあるのですが、本作のような駆け足具合はちょっと観たことがありません。
 表現技法の進化に作品内容が引っ張られのか、作品内容の進化に無理やり表現技法が引き上げられたのかは判りません。
 それが良いか悪いかではなく、なるようになってしまったのでしょう。
 

 では、異常なまでに描きこまんで生み出そうとしている本作のキャラクタたちの欲望をまとめてしまえば、こうなります。
 ――ひとえに勝ちたい、と。
 では勝利の条件はと言えば、生まれもった才能を努力で磨き、心を折らず、相手を上回ることで。
 この作品はそれぞれのキャラクタの才能・努力・心/全てに関して描くことを怠らず、そしてどれにも確かな熱量を持たせました。
 主人公の綾乃。彼女は嘗て天才の母親から英才教育を受けたものの、途中で捨てられバドミントンからも一時的に離れていました。類まれなセンスはあるものの、判りやすい何かが誰よりも優れている訳ではありません――今のところは。
 同じ学校のライバルのなぎさ。女性離れしたスマッシュという一を磨き上げ、活かすことに活路を見出しています。
 別の学校に目を転じれば、デンマーク人のクリステンセン。恵まれた生まれもった体格と才能をきちんとした教育と努力で花開かせた天才です。
 etc、etc。
 メインからサブまで、誰もかもが才能・努力・心をそれぞれなりに抱き、常に変わり続けます。強くなるには、勝つためには、それまでではいけない、と。


 そして、どう闘うか、どうして戦うかを丁寧に描きこまれたキャラ同士が満を持してぶつかり、否応なしに勝者と敗者が生まれる試合は常にとんでもない煌びやかさを魅せます。
 一つ目の頂点が、なぎさ×綾乃戦。
 5巻〜7巻まで費やされた激戦は読み手にページをめくる手を止めさせ、息をつかせません。こんなものを前にしては忘我で受け取るしかないという、測定困難な熱量がこめられています。
 それが終わっても、まだまだ作品内にはこれから爆発するであろう要素が目白押しであり、どこまで連れていってくれるのか、本当に楽しみです。
 
 
 以上。傑作であり、今後更に傑作として洗練されていくと思います。お薦め。
 未読の方はひとまず3巻まで読んでみて、3巻からが合えば、至上の読書体験が待っています。

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 はねバド! / 濱田浩輔 - アフタヌーン公式サイト - モアイ


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