蜘蛛ですが、なにか? 1-16 雑感

 女子高生として授業を受けていた記憶を持つ「私」は突然地下迷宮の蜘蛛に転生していた。最弱に近い幼体から、地下迷宮の過酷な生存競争をスキルとレベルを上げて生き抜いていく――

 という出だしで始まる、なろう発のファンタジー長編小説。
 構成の面白さに膝を打った、なかなかの出来でした。

 ステータスが確認できレベルアップとスキル入手が強くなっていく手段というゲーム的なファンタジー世界観の下、1巻からは「私」を視点に転生した蜘蛛の過酷だけど妙にポジティブシンキングで切り開くダンジョンライフと、王国の第四王子に転生した同じ教室の男子生徒を視点として彼が勇者になり魔王率いる魔族との戦争に巻き込まれていくのが交互に語られていきます。
 最初はいろいろと隠しながら時間が進んでいき、「私」はすくすくと恐ろしい化け物へと成長し、人類と魔族の戦争へと突っ走ります。蜘蛛が迷宮から出て、戦争の口火が切られる4巻までが大きな区切りであり、そこまでは序盤ですが、読むにつれて気になるフックがどんどん増えていきます。

 転生者が色々と出てくるのですが、「私」があの教室の中の誰なのか。
 蜘蛛いなさそうだけど、蜘蛛と魔王軍との関係は? 進化して誰かになっているの? それとも・・・
 エルフが転生者を保護してきたのはなぜなのか。
 そしてなぜ、魔王軍は人類よりもエルフを敵視し、エルフの王に憎悪を滾らせているのか。
 etc、etc。
 そこにTSラブコメとか、UFOとのレイドバトルとか、やりすぎな横道が投げつけられて目くらましされながらも、スキルとステータスを成り立たせている世界の謎が明らかになって蜘蛛と勇者との互いのずれていた認識が焦点を合わせていきます。あの場面のあの感情や言動はそういうワケだったのか――と読み進めてわかっていくのは快楽でした。

 あと戦闘描写がピークになった3巻の蜘蛛対龍がシリーズの大きな山で楽しかったですね。
 「私」がかつて恐怖に震えすごすごと逃げて、その強さに焦がれた龍との相対。

 はは。ここまですごいと逆に笑えてくるわ。
 ああ、良かった。
 あの時感じた恐怖は本物だった。
 あの時感じた恐怖は正しかった。
 地龍アラバ、あんたは強い。
 怖い。
 なのに、嬉しい。
 ああ、嬉しい。
 私は今、あの時震えて隠れることしかできなかった相手と戦えるまでに成長した。
  (馬場翁.蜘蛛ですが、なにか?3(カドカワBOOKS)(Kindleの位置No.3378-3381))

 夢枕獏的なノリで始まる、スキルとレベルの活用が極まったバトルはシリーズの中でも力が入った白眉でした。以降の巻ではバトルは大味になりますが、まあ主眼ではないのでOK、OK。

 そうして巻を重ねていき、蜘蛛の成長が天元突破をし、とうとうスキルとレベルアップから解き放たれた世界外の視点から、解き放たれていない世界内の描写をするという難しい操作をこなすようになるくだりからやりおるわ、こいつと感嘆した次第。これまでくどいぐらいにスキルの数とLVとを羅列してきたことそのものと、それを捨てたことに物語的な意味があるとは、こういったジャンル からでないと出てこなかった鮮やかな転換だったかと。

 なお書籍版のラストはちょっと味気ないですが、これはこれで余韻があって悪くないのではないでしょうか。
 ただエンディングとしては書籍版を読んでから知ったweb版の方が好きですかね。


 以上。なろう系では指折りに好きな作品でした。気になったら4巻までは一気に読んで欲しいです。

  • Link